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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2020.03.31

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利用者各々に合わせて「行きたい」を叶える「パーソナルバリアフリー基準」とは
バリアフリー観光レポートvol.1

伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの職員のお二人(左から野口さん、中山さん)
伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの職員のお二人(左から野口さん中山さん

障がい者や高齢者が旅を計画する際に、旅行者一人ひとりの状況に合わせて情報提供や旅行のアドバイスを行う「パーソナルバリアフリー基準」という相談システムがあります。
今回は、全国に先駆けてバリアフリー観光の仕組みづくりを進めてきた「伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」の事務局長野口あゆみさんに「パーソナルバリアフリー基準」に基づいたセンターの活動と、ALS患者さんからの相談の実際についてお話をうかがいました。

目次

障害の数だけバリアがあるなら、
障がい者の数だけバリアフリーツアーがある

伊勢志摩バリアフリーツアーセンターはJR・近鉄鳥羽駅すぐの商業施設の中にあります。鳥羽駅からは海が見え、開放的です。また、すぐ近くを大きな国道が通っているのでアクセスも良好です。
伊勢志摩バリアフリーツアーセンターはJR・近鉄鳥羽駅すぐの商業施設の中にあります。
鳥羽駅からは海が見え、開放的です。また、すぐ近くを大きな国道が通っているのでアクセスも良好です。
車いす対応の食堂と、入口に段差がある小さな食堂。お客さまが選べるよう、多くの選択肢を提示。
車いす対応の食堂と、入口に段差がある小さな食堂。
お客さまが選べるよう、多くの選択肢を提示。

伊勢志摩バリアフリーツアーセンターは、障がい者や高齢者など身体が不自由な方々に安心して伊勢志摩旅行を楽しんでいただくとともに、ノーマライゼーション社会を実現することを目的に、2002年に設立されました。
専門員と呼ばれる地元の障がい者を含むスタッフが、伊勢志摩をはじめ三重県内の観光施設や宿泊施設などのバリアフリー調査を行い、その情報を発信しながら、電話やメール、FAXでのバリアフリー旅行相談を行っています。

※ノーマライゼーション:障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す考え方。

当時まだ日本になかった取組みは注目を集め、伊勢志摩におけるバリアフリー推進や意識向上にも寄与してきました。

「『行けるところ』を探すのではなく、『行きたいところ』へ行ける、をサポートすることが私たちのモットーです。一般的なバリアフリー情報は、段差の有無などが重視され、『車いすだとここしか行けません』という視点がほとんどです。

でも、例えば、車いす対応の食堂と、入口に段差があるけれど海女さんが営む食堂があった場合、どちらを選ぶでしょうか。安全性を考えれば前者ですが、せっかくだから介助してくれる仲間を誘って後者に行こうと考える方もいらっしゃるでしょう。
問題は、段差があるというだけで後者の情報がこれまでシャットアウトされてきたことです」(野口さん)

できるだけ多くの選択肢を提供し、旅行者として行きたい場所を選ぶことが、満足度の向上につながると考えています。
また、店側としては、「段差を解消して欲しい」と陳情されるよりも、実際に車いすでの来店客があることのほうが、自らバリアフリー化の必要性を実感することができ、意識向上にもつながります。

発想を転換した「パーソナルバリアフリー基準」

旅の選択肢を広げるため、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターでは「パーソナルバリアフリー基準」を独自に考案しました。「基準」といっても数値や良し悪しを定義するものではありません。

「例えば車いすにも手動と電動があり、種類もさまざまあります。杖歩行や義足を使う方もいらっしゃれば、視覚障害や聴覚障害、知的・発達障害などの方もいらっしゃるので、『障がい者』という言葉でひとくくりにはできませんし、これらすべての方に満足していただける設備を整えた施設は、ほとんどないでしょう。ある方には満足でも、別の方からは不満が出るかもしれません。
そんなミスマッチを防ぐ手段が、正確な情報の提供と、現地を知るスタッフによる的確なアドバイスです。
宿泊施設なら入口の段差や間口、客室のベッドの配置や高さ、トイレ・エレベーターの広さをはじめ、バリアになりうるあらゆる要素を計測します。
その情報とお客さまのご希望とをすりあわせてご相談しながら、泊まりたいお宿を選んでいただいています」(野口さん)

調査にあたって活躍するのが、地元の障がい者を中心に構成される「専門員」です。実際に各施設へ出向き、複数の専門員がそれぞれ異なる視点でバリアの有無や程度を評価します。これらの情報をもとに、「眺めの良い部屋に泊まりたい」「露天風呂に入りたい」といった1人ひとりの希望を叶えるのが「パーソナルバリアフリー基準」なのです。

地元の障がい者を中心に構成された専門員が調査。障害によってバリアが異なるので、さまざまな視点で調査が行われています。
地元の障がい者を中心に構成された専門員が調査。
障害によってバリアが異なるので、さまざまな視点で調査が行われています。

「ご高齢や脳梗塞の後遺症などでお体が不自由になられた方やそのご家族からのご相談がほとんどですが、ALSの患者さんからのご相談も年に2〜3件いただきます。ただ、基本的に疾患の種類は重要ではないと考えています。お体の状態や車いすの種類などの実情を把握し、ご希望を踏まえてパーソナルバリアフリー基準での対応を心掛けています。『私なんか無理だろう』と考えず、まずはご相談ください。その方に最適な方法を一緒になって考えさせていただきます」(野口さん)

利用者の声を反映しながら全国に波及

伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの姿勢は、2018年に発行した情報誌『みえバリ vol.2』にも表れています。三重県内の観光地をパーソナルバリアフリー基準で調査して制作されたものですが、バリアはあるけれどそれ以上に魅力があるという観光スポットも数多く掲載しています。

「バリアフリーだから伊勢志摩に来てほしいのではなく、伊勢志摩という観光地に魅力を感じてアクションを起こしていただきたいのです」(野口さん)

できることを増やすという意味では、利用者からの声に耳を傾けて生まれたサービスも。車いすでの伊勢神宮内宮参拝をサポートする「伊勢おもてなしヘルパー」はその1つです。

「内宮(ないくう)には片道約800mの玉砂利の参道と、25段の石段があり、車いすの方にとっては参拝の妨げとなっています。そこで、研修を受けたおもてなしヘルパーによる有償ボランティアシステムを作りました。伊勢市と伊勢市観光協会、伊勢商工会議所、地元の皇學館大学、伊勢おはらい町会議の方たちと私たちの6団体で運営しています。参道を進む際の車いすの介助のほか、正宮前の石段では、4人一組で車いすごと持ち上げ、石段上での参拝を実現させます。
※石段上げは、お身体の状態や車いすによっては対応できない場合もあります。
お客さまにとっては地元の人と触れ合う機会になりますし、同行するご家族にとっても観光を楽しむゆとりが生まれます。せっかく旅行に来ても介助で疲れ果ててしまったら、また来ようという気にはなれませんから」(野口さん)

また、バリアフリー旅行を支える取組みは各地にも波及し、2011年には全国組織の日本バリアフリー観光推進機構が設立されました。2019年9月現在、約20団体が加盟し、パーソナルバリアフリー基準でのバリアフリー観光案内や情報発信を行っています。

「機構への加盟団体以外にも同様の取組みが増え、私たちが立ち上げた当初に比べると窓口はずいぶん増えました。私たちとしては障がい者やご高齢の皆さんに、どんどん観光に出てきてもらいたいと思っていますから、全国に窓口が増えることは歓迎です」(野口さん)

1人が旅行に出かけることで、同じような障害を持つ人が「自分も行けるかも」と連鎖。そんな1人ひとりのチャレンジに応える活動がますます広がっています。

日本バリアフリー観光推進機構加盟団体(2020年2月現在)。2019年4月より、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが機構の窓口機能を担当。
秋田県
秋田バリアフリーツアーセンター
山形県
山形バリアフリー観光ツアーセンター
仙台市(宮城県)
仙台バリアフリーツアーセンター
福島県
ふくしまバリアフリーツアーセンター
東京都・関東
高齢者・障がい者の旅をサポートする会
湘南(神奈川県)
湘南バリアフリーツアーセンター
伊豆(静岡県)
伊豆バリアフリーツアーセンター
石川県
石川バリアフリーツアーセンター
愛知県
チックトラベルセンター ハートTOハート
伊勢志摩(三重県)
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
兵庫県
しゃらく
鳥取県
トラベルフレンズ・とっとり
島根県
松江/山陰バリアフリーツアーセンター
新居浜市(愛媛県)
四国バリアフリーツアーセンター
呉市(広島県)
呉バリアフリーツアーセンター
広島県
広島バリアフリーツアーセンター
大分県
別府・大分バリアフリー観光センター
佐賀県
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
鹿児島県
かごしまバリアフリーツアーセンター

日本バリアフリー観光推進機構加盟団体(2020年2月現在)。
2019年4月より、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが機構の窓口機能を担当。

ALS患者さんの旅もサポート

ALS患者さんの旅もサポート

■人工呼吸器を装着していた鳥取県のNさん
車いすで猿田彦神社を参拝し、ご祈祷を受けるというNさんのご希望を実現するため、福祉タクシーの手配とともに、ホテルのご紹介と介護ベッドや褥瘡予防マットのレンタルも手配しました。

■ご自身で旅程を計画した東京都のHさん
患者さんであるHさんみずから旅程を詳細に計画し、同行する奥さまやヘルパーさんのために松坂牛の情報を希望されたので、個室が利用できるおいしい店をご紹介しました。Hさんは「日ごろ自分を支えてくれている方たちの笑顔を見られて、嬉しかった」とのことでした。

■福岡県の理学療法士のKさん
Kさんが担当されているALS患者さんが屋久島登山を希望されており、Kさんよりヒッポキャンプ(水陸両用の車いす)を使えないかというご相談を受けました。けん引式車いす補助装置をご紹介するとともに、屋久島に詳しい鹿児島のバリアフリーツアーセンターをご紹介しました。

そのほかにも、特別食(ペースト食)・食事の持ち込み、酸素ボンベのレンタル、機械浴・シャワーチェアやシャワーキャリーの有無、同行される方の客室やお食事の手配のご要望に対応したこともあるそうです。


NPO法人 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

「行きたい」を叶えるために、資料にあたったり、施設などに問い合わせたりして、何度もご提案いたします。
体調によっては旅程が変更になるかもしれないと、ぎりぎりまで当センターへのご相談をためらっていらっしゃることがありますが、手配に時間がかかることもありますので、「伊勢志摩に行きたい」と思ったら、まずはお気軽にご連絡ください。

NPO法人 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
三重県鳥羽市鳥羽一丁目2383-13 鳥羽1番街1F
ホームページ: https://www.barifuri.com
メールアドレス:iseshima@barifuri.com
電話:0599-21-0550 / FAX:0599-21-0585
営業時間:9:00〜17:30(季節により変更あり)木曜休(繁忙期は無休)
事業内容
  1. バリアフリー観光情報の収集発信
    伊勢志摩の観光・交通・トイレなどのバリアフリー状況を調査しwebで情報発信
    スタッフ常駐のバリアフリー旅行相談窓口の開設
  2. 宿泊施設のバリアフリー調査評価
    バリアフリーに積極的な宿泊施設の情報をwebで公開
  3. 観光地のバリアフリー化
    「行きたいところ」へ「行ける」を増やす活動
  4. イベントアクティビティ
    お伊勢さんマラソン バリアフリーランの運営など、地域でのイベントや祭り参加の支援

本コンテンツの情報は公開時点(2020年3月31日)のものです。

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