2020.10.05
- 連載
- 病気のこと
新型コロナウイルス感染症とALS
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.1
- 目次
1.ALS患者さんは感染しやすいか
ALS患者さんが新型コロナウイルスに感染しやすいという報告は、現在のところありません。
しかし、咳や痰等と一緒にコロナウイルスが付着した粒子が室内に排出されると、いわゆるエアロゾル感染が起こるとも言われています。
ALS患者さんの多くは、呼吸器、ネブライザー、吸引器を使用しているため、エアロゾル*を吸い込んだりすることにより新型コロナウイルスに感染するリスクが高い環境下にあることが容易に想像できます1) 。
*エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体または個体の粒子と周囲の気体の混合体を指します。
日本エアロゾル学会ホームページ https://www.jaast.jp/new/square.html
また、新型コロナウイルス感染症患者さんの配偶者の約3分の1が、PCR検査が陽性であったという報告があります2)。
ALS患者さんは介護を必要とすることから、配偶者や介護者との接触頻度が高く、ALS患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合、周囲の方はより高い陽性率を示すと考えられます。
さらには、新型コロナウイルス感染症のために、ALS患者さんは病院に通院できず、胃瘻や呼吸器など必要な処置や対策ができないことが予想されます。このようなことのないよう、早目の準備*、導入を検討する必要があります。
*コロナ感染症に対する準備に関しては、次回の公開記事でご紹介いたします。
1) Young E et al. J Neurol Sci. 2020, 414, 116893.
2) Wei L et al. Clin Infect Dis. 2020, Apr 17 doi: 10.1093/cid/ciaa450. Online ahead of print.
2.ALS診療にどのような影響が予想されるか
- ALS診療への影響
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東邦大学医療センター大森病院では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の時期においても、ALS患者さんの受診を制限していませんでした。
一方、アメリカの61施設を対象とした調査では、感染拡大防止のため、再診患者さんの約半数が通院できず、ビデオ診療であったと報告されています3)。また、肺機能検査を必要とする患者さんの約3分の1しか検査を受けることができませんでした。
- ALS治療薬への影響
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世界的に新型コロナ感染症の影響を受けて、ALS治療薬の治験については、患者さんの新規登録が止まっており、すでに登録されている患者さんは治験薬投与が継続して行われているものの、治験全体では進行の遅れが生じています*。一方、海外では中断を余儀なくされた治験もあります。
*ALS Café web開催(2019年5月30日) 時点の状況です。
3) Andrews JA et al. Muscle Nerve. 2020, 62(2):182-186
3.New Normal after COVID-19
(新型コロナウイルス感染症流行後の新たな常識)のための課題
カルテのセキュリティシステムを強化し、イントラネットからインターネットへ移行し、オンライン診療を行えるようにする必要があります。その際には在宅医との連携が重要です。
また、オンライン診療を行えるようになっても、採血や肺機能検査などの検査ができなくては十分な診療は難しいといえるでしょう。在宅用のスパイロメーター(肺機能検査スパイロメトリーを測定する器械)などの開発・普及が求められます。
これらの課題の解決はハードルが高いのですが、第二波も含めたウイルス感染や災害時における対策と準備のため、当院のALSクリニックで患者さんや介護者の実態調査を行い、今後に役立てていきたいと考えています。
5⽉30⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2020年10月5日)のものです。