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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2024.03.28

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アクセシビリティ
What is “Accessibility?”
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.11

東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 准教授 高尾 洋之 先生
東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部 准教授
高尾 洋之 先生
目次

医師であり、ギラン・バレー症候群患者である私

はじめに、私自身のことについて、お話しします。
東京慈恵会医科大学の脳神経外科で医師として仕事をしていた私は、2018年8月に重症のギラン・バレー症候群を発症しました。ギラン・バレー症候群は、一般に発症から1ヵ月ほどで症状がもっとも重くなり、その後、徐々に回復してくるという特徴をもつ病気です(図1)。私の場合は重症で、意識不明の状態が4ヵ月つづき、目覚めたときに動かせたのは目だけでした。

図1:ギラン・バレー症候群の症状進行の特徴(イメージ図)(高尾先生ご提供)
図1:ギラン・バレー症候群の症状進行の特徴(イメージ図)(高尾先生ご提供)

5年が経過した今、呼吸器などの管は外れ、口から食事を摂れるようになり、再び自分の声で話すことができるようになりました。四肢麻痺については、肘が少し曲げられる程度で、指はまだ動かせません。

この病気になって、何より辛かったのはコミュニケーションが困難になったことでした。
ようやく、ゆっくりですが、コミュニケーション方法を失った時期の状況や心情について、当事者として考え、発信することができるようになってきました。
そして現在、脳神経外科という専門性も活かし、アクセシビリティの研究・実践に取り組んでいます。

アクセシビリティとは

アクセシビリティとは、障害や病気などが原因で困難を抱えている方が、インターネットのウェブやパソコンなどの機器を、一般の方と同様に使えるようにする技術や工夫のことを指す用語として知られていました。近年では、ウェブやパソコンだけでなく、社会のあらゆる場面で、使いにくい、わかりにくいという問題を解消する技術やシステムとして捉えられています。

アクセシビリティの考え方は、目的地への移動手段に例えると理解がしやすくなります(図2)。

図2:アクセシビリティの例:目的地への移動手段(高尾先生ご提供)
図2:アクセシビリティの例:目的地への移動手段(高尾先生ご提供)

人に会うために、東京から大阪に移動する必要があるとき、自分の車が故障したとします。車で行く以外の方法がなければ、その人に会うことはできません。しかし実際には、新幹線や飛行機といった別の交通手段があります。相手の人に東京まで来てもらうことも、移動はせず、オンラインで話をすることもできるでしょう。

その人と会って話をするという目的を果たすために、複数の手段から自分が使いやすいものを選ぶことができる。
何かの情報を得たい、人とコミュニケーションを取りたい、買い物をしたい、エンターテインメントプログラムを観たい、家電を操作したい、といった目的を実現するために、いろいろな手段があることが、アクセシビリティが高い状態、と言うことができます。

3つのアクセシビリティ

一般的にアクセシビリティには、下記3つの意味があります。
 ①サービスデザイン(ウェブアクセシビリティ、UI/UX)
 ②アクセシビリティ機器・機能
 ③アクセシビリティシステム

① サービスデザイン

情報へのアクセスのしやすさを考慮したデザインです。
例えば、視覚に障害がある人でも識別できる色づかいやレイアウト、使い慣れていない人でもわかりやすいデザイン、子どもや高齢の方、外国の方でも理解しやすい言葉づかいなどが、あげられます。

全ての人に適したデザインを行うことは難しいのですが、使う人が自分に合った設定を選べるウェブサイトの仕組みが提供されていたりします(詳しくはこちら  ※ 外部サイトに遷移します)。
また、ウェブ以外の情報へのアクセス方法を考えることも必要です。

② アクセシビリティ機器・機能

アクセシビリティを高める機器や機能です。

例えば、音声コマンドで作動するバーチャルアシスタントを用いて、ウェブ検索をしたり、家電を操作したり、電話をかけたりすることができます。また、私は、スマートフォンなどに標準装備されているホワイトボードアプリを筆談に活用していますが、このアプリにはオンライン機能もあるので、遠いところにいる人と筆談することも可能です(図3)。

図3:アクセシビリティ機器・機能の一例 (左)バーチャルアシスタント、(右)ホワイトボードアプリ
図3:アクセシビリティ機器・機能の一例
(左)バーチャルアシスタント、(右)ホワイトボードアプリ

文字を合成音声で読み上げる機能も珍しいものではなくなり、自分の声をサンプリングし、まるで自分が喋っているかのような合成音声を用いることもできるようになりました。私も活用しています。1時間の講演依頼が来ても、この機能を駆使すれば最後までお話しすることができます。

昔からあるアクセシビリティ機器も、デジタル技術の進展によって使いやすくなっています。
例えば補聴器は、単に音を増幅させるだけでなく、騒音を抑えたり、聴きたい音だけにフォーカスしたりすることが可能になりました。動作を感知するモーションセンサーを搭載して、歩行中なら隣を歩く人の声を聴きやすいモードになるといった優れものも登場しています。

これまでは、障害のある方や高齢の方など、困っている方向けに特別な機器・機能を開発することが多かったのですが、このように、一般向けに普及している機器や機能が、アクセシビリティの向上に役に立つことが多くなってきました。

③ アクセシビリティシステム

障害のある方や高齢の方でもアクセスしやすい社会システムです。
もっとも身近なのは交通系ICカードでしょう(図4)。目的地までの料金を確認し、小銭を出して切符を買い、その切符を改札機に通したあと、目的地まで失くさずにしっかりと持っておく。この一連の作業が簡単ではない方にとって、交通系ICカードの普及は、本当に嬉しい変化です。最近はコインロッカーの利用や買い物もできるようになり、さらに便利になりました。

図4:アクセシビリティシステムの一例(高尾先生ご提供)
図4:アクセシビリティシステムの一例(高尾先生ご提供)

あるいは、マイナンバーカードが保険証と紐づき、診療記録や処方情報が一元化されることも、持病のある人にとって大きな安心につながります。

デジタル化が進み、慣れ親しんだ切符や保険証がなくなることに不安を覚える人もいるようですが、このようなシステムが普及することで、社会全体のアクセシビリティは向上していくはずです。

そして、日頃から使っているさまざまな機器・システムに、アクセシビリティを高める機能があることを知っていれば、病状が進んだときなどに、慌てることなく使い続けることができます。

アクセシビリティは患者さんのQOLを向上する

アクセシビリティの向上は、病気や障害を抱える方のQOL(生活の質)向上に直結します。
医師、そして病院の第一の役割は、病気を治療し、症状やADL(日常生活動作)を改善することですが、QOLの向上も、これまで以上に重視されるべきだと考えています。

病院スタッフを対象としたアクセシビリティ講習会や、アクセシビリティの考え方と活用方法について学ぶ取り組みを始めている施設もあります。院内のシステムやサービスのデジタル化を推進するとともに、主に高齢の患者さんやそのご家族に対して、デジタルデバイスに慣れていただくための講習会などが行われています。

誰一人取り残されない社会の実現

アクセシビリティは、障害のある方や高齢の方だけのものではありません。
実際に、障害のある方向けに開発されたアプリやシステムが、一般の方にとって役立つツールへと発展したケースもあれば、逆に、一般向けに開発されたシステムが、障害のある方にとって非常に便利なツールになっていることも珍しくありません。
人は誰しも、生活する上で多少の困りごとを抱えています。みんなでアクセシビリティについて学び、実践することで、誰もが暮らしやすい社会を築くことができると考えています。

2023年10⽉7⽇開催ALS Café webの内容をもとに情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2024年03月28日)のものです。

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