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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2021.01.28

  • 連載
  • 病気のこと

新型コロナウイルス
感染症における
人工呼吸器の注意点
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.2-1

新型コロナウイルス感染症とALS
東邦大学医療センター大森病院 呼吸ケア外来 専門看護師
渕本 雅昭先生
目次

1.感染対策に対する基本的注意点

人工呼吸器の使用や人工呼吸に関わる処置で大量のエアロゾルの発生を伴います。エアロゾルとは、空気中に含まれる微小の液体や固体などの粒子です。
コロナウイルスは、このエアロゾルを介して感染するとも言われています。
気管挿管(気管にチューブを入れる行為)、気管切開のチューブの交換、NPPVマスクの着脱、ネブライザーやリハビリテーション、スクイージングという排痰ケアの際にエアロゾルが発生しやすいといわれています。
また、エアロゾルが発生した環境では、エアロゾル発生3時間後においてもコロナウイルスが約10%残存していたとの報告があります1)
したがって、ALS患者さんご自身がご家庭で人工呼吸器を使用する際には、エアロゾルを念頭に置いた感染対策が必要です。

図 PPE(個人防護具)図 PPE(個人防護具)
図 PPE(個人防護具)

1) Doremalen N, 2020.

2.治療やケアに関連する注意点

人工呼吸器のエアインテークフィルタ

人工呼吸器の空気取入れ口には、エアインテークフィルタと呼ばれるフィルタが取り付けられており、このフィルタを介して室内の空気が人工呼吸器内に取り込まれます。
感染対策の面からは、このエアインテークフィルタが新型コロナウイルスを除去できるHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)であることが望ましいのですが、在宅医療で一般に使用されている人工呼吸器の多くには防塵フィルタが用いられています。
しかし、防塵フィルタはほこりやちりなどを防ぐためのフィルタですので、ウイルスの除去には十分とはいえません。

このため、エアインテークフィルタとして防塵フィルタを使っている場合は、人工呼吸器内部がウイルスで汚染され、使用中に吸い込んだ空気から患者さんや周囲にウイルスを含むエアロゾルが拡がる可能性があります。また、人工呼吸器の内部にも新型コロナウイルスが付着する可能性もあるため、使用後は内部の消毒も必要となります。

図 人工呼吸器のエアインテークフィルタ図 人工呼吸器のエアインテークフィルタ
図 人工呼吸器のエアインテークフィルタ

日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技士会人工呼吸器の指針では、防塵フィルタを使用する場合は、必ず吸気側にバクテリアフィルタを装着すると記載されています。しかし、病院のような医療施設とは異なり、在宅医療では、この指針のすべてを取り入れることが難しい場合もあるかもしれません。ご自宅では、患者さんご本人のみが使う人工呼吸器であることを前提として、患者さんがウイルスを保有している場合も含め、かつ、家族に新型コロナウイルスにかかった方がいないのであれば、まずは現在ご使用の人工呼吸器をそのままお使いいただき、バクテリアフィルタへの交換や内部の消毒など、できることから少しずつ取り入れていただくとよいのではないかと思われます。

2) 日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技士会:新型コロナウイルス肺炎患者に使⽤する⼈⼯呼吸器等の取り扱いについて―医療機器を介した感染を防⽌する観点から―Ver.2.2

呼吸器回路の感染対策

人工呼吸器を介して、ウイルスを吸い込んでいる可能性とウイルスを吐き出している可能性の両方があります。このため、吸気側と呼気側の両方にバクテリアフィルタを使用することが望ましいと考えられます。
吸気側と呼気側の両方にバクテリアフィルタをつけた場合は、吸いづらくなるかもしれませんので、とくに、患者さんのご家族や在宅医療にかかわる医療従事者の方々には、慎重に患者さんの様子を注視していただきたいと思います。
フローセンサーや圧力センサーを呼吸器回路の途中に接続している方もいらっしゃると思いますが、これらの装置を接続している場所からエアロゾルが発生し、ウイルスが侵入する可能性もあります。
こうしたセンサーを付けないことも感染対策の一案かと思われますので、かかりつけの先生にご相談いただくとよいでしょう。

表 人工呼吸器、フィルタの注意点表 人工呼吸器、フィルタの注意点
表 人工呼吸器、フィルタの注意点
人工鼻・加温加湿器の使用

人工鼻使用のメリットは、患者さんご自身がコロナウイルスを保有している場合に、介護されている方や周囲の方へのウイルスの曝露を軽減できることです。人工鼻についても、バクテリアフィルタ付きの人工鼻が推奨されています。
加温加湿器使用時は、自動給水型の加温加湿モジュールを使い、人工鼻の交換の頻度を減らして、エアロゾル発生の可能性を減らします。ただし、加温加湿器を使用する時は人工鼻を使用できませんので、人工呼吸器に呼気フィルタを装着します。

その他

エアロゾル発生が少ないカフ付き気管チューブや、閉鎖式の気管吸引チューブの使用が推奨されています。
また、回路交換時やNPPVマスク使用時はエアロゾルが発生する可能性があり、ウイルスにさらされるリスクが高い状態といえます。ご家庭でこれらの操作を行う時は、マスクや手袋、できればエプロンを着用するなど、PPEに準じた防護をしていただくとよいかと思います。

人工呼吸器本体の外側については、抗ウイルス作用のある消毒剤を含有するクロスで清拭するとよいとされていますが、酒精綿が手に入りにくいことがあるかもしれません。その際には、薬局で売られているような除菌剤や除菌シートで代用することもできます。
さらに、人工呼吸器だけではなく、患者さんのベッド周囲環境についても消毒・清掃を徹底していただくことが望ましいのではないかと思われます。

まだまだstay homeを続けていく状況下にありますので、ALS患者さんとそのご家族のみなさまには、人工呼吸器の使用も含めて十分な感染対策を行っていただきたいと思います。

5⽉30⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2021年01月28日)のものです。

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