2021.01.28
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災害時の
人工呼吸器対策と支援
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.2-2
人工呼吸器対策と支援
- 目次
1.ライフラインに影響を及ぼした災害
人工呼吸器対策という点でお話をするにあたり、ライフラインに影響を及ぼした近年の災害の一部をご紹介します。
2016年4月の熊本地震、2017年7月の九州北部の台風による豪雨、2018年7月の西日本・中部地方、北海道の台風による豪雨、同年9月の北海道胆振東部地震、2019年9月、10月の東日本台風による家屋倒壊、停電、断水、ガス供給停止、道路・鉄道通行止め、通信回線不通など、ライフラインに大きな影響を及ぼす災害が毎年起こっています。
新型コロナウイルス感染症の流行が収束しないままに自然災害が発生すると、いわゆる災害が重なる複合災害というリスクが懸念されます。
2.災害時の準備状況の調査結果
東日本大震災後に宮城県で人工呼吸器を装着して療養しているALS患者さん、また、多系統萎縮症患者さんを対象に行った調査では、災害が起きた際の対応で不安に思うこととして電源確保の困難が24%。続いて、介護者や人手不足19%で上位を占めていました1) 。
また、東京都に住む人工呼吸器を使用している難病患者さんを対象に行った調査では、医療機器類の停電前の確認事項として外部電源の確保(シガーソケットからの供給や発電機の準備)は約35%、足踏み式等の非電源吸引器の準備は約42%という結果でした2) 。
以上の結果から、停電が長時間に及ぶ際の準備に関して、医療機関や保健機関による支援が重要だと考えられています。
人工呼吸器の電源供給については、ほかにも調査結果が示されています。
対象は難病患者さんに限らず、すべての在宅人工呼吸器患者さんの外部バッテリーの装備率について調査されたものです3)。
2016年のデータですが、気管切開下人工呼吸療法を受けている約6,000人の患者さんの外部バッテリーの装備率は平均84.1%でした。都道府県別にみますと、最も低い都道府県の準備率は33.3%、最も高かったのは和歌山県で100%でした。また、非侵襲的人工呼吸療法を受けている約12,000人の患者さんの外部バッテリーの準備率は平均約21%でした。最も低い都道府県の準備率は0%で、最も高い都道府県は65.7%でした。非侵襲的人工呼吸療法の外部バッテリーの準備率の低さについては、夜間のみという使用時間が限られている患者さんもいらっしゃることが理由と考えられています。
1) 青木正志:在宅人工呼吸器使用患者への対応をどうするか, 臨床神経学, 53(11), 2013.
2) 東京都福祉保健局:東京都在宅人工呼吸器使用患者災害支援指針
3) 災害時難病患者個別支援計画を策定するための指針(改訂版),2017
3.今からできる! 人工呼吸器 災害時の備え
- 災害時のハンドブックの作成・記入
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災害時のハンドブックは、自治体から入手することができます。避難場所や緊急連絡先、生活用品の備蓄リストなどが記入できるようになっています。
また、難病患者さんや人工呼吸器使用中の患者さんを対象としてつくられたものもあり、この中には避難のために必要となる人員数、呼吸器の機種や消費電力、内部バッテリー使用可能時間、外部バッテリーの備蓄の有無やその作動時間、吸引に必要となる物品など、医療機器関連のものがチェックできるページがあります。
- 電源の確保
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内部バッテリーの充電をしておくことや、準備が可能であればUPS(無停電電源装置)を用意します。また、電力会社へ登録をしておくことで、地域に限局した停電や計画停電、復旧の見通しなどの連絡を受けることが可能になります。
東日本大震災の際には東北電力、東京電力が人工呼吸器を使用している患者さんに対して発電機を無料で貸し出されていました。外部バッテリーの確保、交換をしておくことも重要です。メーカーやかかっている医療機関に確認をして保証期間が過ぎていたら交換してもらうようにしましょう。
- 非常時に使うものの操作練習
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バッグバルブマスクについては使い方ももちろんですが、劣化や付属品の不備がないかどうかも点検しておきましょう。
非電源の足踏み式や手動式の吸引機、呼吸器の外部バッテリーの着脱方法など、災害時に不安が生じている中で困らないように、日ごろから操作の練習をしておくことが大切です。
- 地震の揺れへの対策
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地震による揺れに対して環境を整えておきましょう。
人工呼吸器を置いている台を固定します。キャスタータイプのものを使っている場合は必ずロックをしておきましょう。
また、人工呼吸器本体の落下防止のために呼吸器の下に耐震ゲルやマットを敷いておく、または、ベルトやワイヤーで固定をしておくことも大切です。ベッドがキャスタータイプのものをお使いの場合は、揺れによってベッドと呼吸器の台が動いてしまい、呼吸器が外れてしまう原因となるので、キャスターのロックも忘れずに行っておきましょう。
- 自治体の届け出
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平成25年に災害対策基本法が改正になり、自治体での災害時要援護者リストの作成が義務付けられました。必要とする援助が変更になったような方は自治体へ届け出をしておきましょう。
また、災害/避難個別計画書を作成しておくことも大切です。東京都は訪問看護師さんを通して災害時個別支援計画書を作成することになっています。利用者と訪問看護師さんがそれぞれ必要書類に記入し、福祉管理課に提出することで患者さん、訪問看護ステーション、自治体で情報が共有されます。
今後、私自身も看護外来でかかわる患者さんやご家族に、災害時の備えについて情報提供をしながら活動を続けていきたいと思います。
5⽉30⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2021年01月28日)のものです。