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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2021.08.31

  • 連載
  • 病気のこと

ALS患者さんの意思決定に
医師として思うこと
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.6

徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野(脳神経内科)  教t授 和泉 唯信 先生
徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野(脳神経内科)
教授 和泉 唯信 先生
目次

はじめに少し自己紹介

私は脳神経内科医であり、お寺の住職の息子として生まれた僧侶でもあります。
といっても、医師の立場で宗教的な話をすることはほとんどありません。 

医師を目指したきっかけは、僧侶であった父の入院でした。
理学系の大学に通い、柔道三昧の日々を送っていたときのことです。
病床で父が私に「医師になって、生きた人に対して仏教を説け」と言ってくれた言葉に突き動かされ、医学部に入りなおし、その後、恩師(梶龍兒教授)との出会いを機にALS診療に携わって20年が経ちました。

今回は、ALS患者さんの意思決定にあたって、これまでの経験を通して、私が思うことを述べたいと思います。

ALSの告知、病状説明にあたって

私たち医師や医療従事者の説明は、患者さんの意思決定に多大な影響を及ぼします。
そのため、ALSの診療ガイドラインには診断や治療についてだけでなく、病気をどのように患者さんに告知し、病状説明をするかという項目が設けられています。
その中に「告知に際して話すべきことチェックリスト」があり、とても大切なので紹介したいと思います。

【告知に際して話すべきことチェックリスト(抜粋)】

  • ・告知をする前に環境を整え、資料など準備状況を確認し、十分な時間を確保する。
  • ・患者さんが現状をどのように捉えており、病気をどの程度知りたいと思っているかをつかむ。
  • ・すべての情報を一度に伝える必要はない。必要に応じて数回に分けて詳しく説明していく。
  • ・重要な情報は最初に伝えるようにする。その際、患者さんにとって厳しい情報はよい情報とともに伝えること。
    患者さんの動揺が大きいからといって悪い情報を伝えたのみで終わることのないようにする。
  • ・患者さんやご家族の反応をみながら、伝える内容、量、伝え方を調整する。
  • ・全体を通して病状や予後など個人差が大きい疾患であり、インターネットや本に書いてあることが必ずしも当てはまらないことを説明する。
  • ・治癒を望めない状態だからといって見捨てられるわけではなく、病状を改善する様々な方法があることを伝える。
    どうしてこのような伝え方をしたかについても説明を加える。

「日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編.
筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013. p.47」より許諾を得て転載.

『患者さんやご家族の反応をみながら、伝える内容、量、伝え方を調節する』、本当に大切なことであると実感しています。

私がALS患者さんと接するようになった初期の頃は、患者さんとお話をして「初めて聞いた」と言われると、前の病院はこんなことも伝えていなかったのかと少し上から目線に感じることもありましたが、そうではなかったのです。
前の病院でちゃんと話をされていたけれど、患者さんの耳に届いていなかった。
このようなことからも、『反応をみる』というのは本当に大切であると思います。

ガイドラインからは離れますけれど、人により、生老病死の受けとめ方は全く違います。つまり病状説明に対する反応は一人ひとりで全く違うということです。それは言うまでもなく当たり前のことなのですが、説明を同じように捉えられて、同じように受け止められていると私たち医師も思っているのではないでしょうか?

その他に、『表現に注意する』ことも非常に大切です。
教科書通りに、そのまま表現して良いのでしょうか?本当のことだからと、全部言って良いわけではないのではないでしょうか?

『患者さんとともにご家族の反応をよく見る』『告知や病状説明後のアフターケアを行う』、このような一つ一つの取り組みが大切だと実感しています。

多職種連携診療チームによるALS患者さんへのかかわり

特に、患者さんのケアにおいては、患者さんやご家族を含めた多職種連携診療チームが何より大切になってきます()。

図:多職種連携診療チームのかかわり図:多職種連携診療チームのかかわり
図:多職種連携診療チームのかかわり

「日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編.
筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013. p.60」より許諾を得て転載.

この中では脳神経内科医が一番上にきていますが、主治医が主役という意味ではありません。患者さんやご家族をとり囲んで、医療従事者や関係者がチームを組んでかかわっていくイメージです。
この図のように、みんなでかかわっていくということが、少しずつ浸透すれば良いと思います。

患者さんやご家族は、病状の進行と時間の経過とともに、必ず病気を受容していくというわけではありません。
気持ちは日々揺れ動くものです。
気管切開に関しても、気管切開することを決めたからといって、それで気持ちが固まったと断言しがちですが、その気持ちも揺れ動きます。一度は決めたけれどやっぱりやめたいと、考えが変わることも少なくありませんし、私たち医療関係者はそういった気持ちの変化を受け入れなくてはいけないと思います。
このような気持ちの揺れを、どのように受け止めるかということは大切な問題でありますし、それに対しても多職種連携診療チームで取り組んでいくということをおすすめします。 気持ちの揺れはあるのが当然なのですから、患者さんは遠慮せずにその思いを伝えてください。
また、ご家族は、患者さんの気持ちを大事にしながらも、是非、ご自身の思いを医療従事者(多職種連携診療チーム)にも伝えてください。

これまでALS患者さんに接してきて思うこと

医師になりいつしか治療を施す医療者の方が患者さんを「導く」ものだと、どこかで思っていました。しかしALSの診療に専念するようになって多くの患者さんと接するようになり、その間違いに気が付きました。

自宅へ診察に行き久しぶりに再会した患者さんは大泣きをされた後に「先生はお忙しいのだから、早く帰ってください」と労わってくださいました。自分の身体は動けずとも人を労わろうとされたのです。

ALS発症後も発症前と同じ自分の生き方を貫き頑張っている患者さんにもお会いしました。「大変な病気をなさったのだから(身体第一に)時間を大切にお過ごしください」と伝えた私は、その後も生き方の美学を貫くその患者さんの態度を見続けるうちに、なんて上から目線の言葉をかけてしまったんだろうと後悔しました。医師は病気の知識には通じています。だからといってその人の「在(あ)り方」に立ち入る力など、決してなかったのです。

これらの患者さんと接するうちに、患者さんと医師の立場は全く等しく、対等なんだという当たり前のことに、ようやく気付かせていただいたのです。本当に大事なことに気付かせていただいたと感謝しております。

これからもALS患者さんにかかわっていきます。
意思決定にかかわることも少なくないでしょう。
本当に微力ですけれども、頑張っていきたいと思います。

2020年9⽉26⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2021年08月31日)のものです。

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