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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2022.04.11

  • 連載
  • 病気のこと

ALS患者さんとともに歩む“意思決定へのプロセス”
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.8

東邦大学医療センター大森病院 脳神経センター 講師 平山 剛久 先生
東邦大学医療センター大森病院 脳神経センター
講師 平山 剛久 先生
目次

意思決定には「見直し」が大切

ALSでは、患者さんと医療従事者がともに検討を行い、患者さんにとって最善の意思決定をしていくことが重要です。

ALSをはじめ、病気の治療方針等の“意思決定へのプロセス”(図1)では、患者さん・ご家族と、医師・看護師などの多職種連携チームが一丸となって、診断・告知後のさまざまな相談・支援、情報共有を行い、患者さんとともに考え、患者さんが納得できる意思決定を目指して、見直しを含めた検討を重ねていきます。

図1:ALS患者さんとともに歩む“意思決定へのプロセス“(イメージ図)
図1:ALS患者さんとともに歩む“意思決定へのプロセス“(イメージ図)
図1:ALS患者さんとともに歩む“意思決定へのプロセス”(イメージ図)

このプロセスで特に重要なのは「見直し」です。
治療方針や意思決定の多くは、変えられない決定事項ではなく、検討し直せます。
気持ちや環境、病状が変化する中で、患者さん・ご家族に新たな悩みが生じたり、考えが変わったりするのは当然のことです。
患者さん・ご家族は、過去の決定に縛られることなく、その時の考えや気持ちを医療従事者に素直に伝えていいのです。

医療従事者は患者さんとともに、何度も何度も「見直し」を行い、患者さん・ご家族にとって納得できる、最善の意思決定に近づけていきたいと考えています。

医療従事者だけでは難しい「見直し」

患者さんがALSと診断された時、私たち医師はご本人やご家族に病名を告げ、さらに病気の特徴、今後の症状についての予測、治療方法とそのタイミングなどについて説明します。

患者さん・ご家族には、どのような治療を行い、どのような支援を受けられるのか全体像を掴んでいただきたい、そして、さまざまな職種のプロがチームでサポートすることを最初にお伝えしたいとの想いからです。

しかし、当然のことですが、患者さんは大きなショックを受けられ、私たちの説明が頭に入らなくなる方もおられます。
患者さんの年齢、価値観、性格などによって受け止め方や考え方が違うため、患者さんにどこまで伝えるべきか、多くの医師が悩んでいるのが現状です。

オーストラリアで行われた調査では、患者さんの35%が医師の病名告知について不満を抱いていました1)。また、告知を行う医師の側も、69%が病名告知を難しいと感じ、65%が告知の際にストレスを感じたという結果が報告されています2)

1)Aoun SM et al. Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 17(3-4): 168-178, 2016
2)Aoun SM et al. J Neurol Sci. 367 :368-374, 2016

「見直し」の鍵は患者さんの声

2020年、ALSの患者さん・ご家族に、告知を受けた際に感じたことなどを聞くアンケート調査が行われました3)

この調査から、医療従事者からの病名告知の際には充分な時間(調査では45分)を確保すること、治療方針だけでなく、利用できる支援・サポート情報(図2)も含めて説明することが、患者さんの不安軽減につながることがわかってきました。

図2:サポート情報の例図2:サポート情報の例
図2:サポート情報の例

さまざまな患者さんの声から、医療従事者側は新しい気付きを得て、情報共有方法等の見直しにつながっていくのです。

3)Hirayama T et al. Acta Neurologica Belgica. 2021 Sep 16. doi: 10.1007/s13760-021-01801-3. Online ahead of print.

不安を和らげるためにできる相談時の工夫

これまでの調査結果等を踏まえて医療従事者は、ALS患者さんに病名告知や病状説明を行う際には、患者さんが不安を抱えたまま終わることがないよう、さまざまな工夫を行っています。

例えば、医師だけでなく、看護師、ソーシャルワーカー、栄養士、リハビリテーションを担当する療法士など、患者さんに必要な専門スタッフが同席したり、または同じ日に相談等できるように調整を行ったりして、説明に時間をかけ、利用できる支援・サポート情報も含めてお伝えするなどです。

もちろん、一度に相談するのが大変だと感じる方は、分散させてもよいと思います。
患者さん・ご家族の方は、まず、受診の際にご自身がどのように感じているのか、どのようにして欲しいのか、ご希望を医療従事者に伝えてみてください。

また、患者さん・ご家族の方にできる工夫としては、受診・相談の曜日や時間帯の調整があります。

例えば、金曜日に説明を受けると、後になって生じてきた疑問や不安を主治医に伝えたくても月曜日まで待たなければなりません。また、午後の遅い時間帯は気分が沈みがちになる方もいます。
お仕事の都合などで難しいときもありますが、できるだけ翌日が休診日(土日祝日等)でない日の午前中をお勧めしています(図3)。

図3:不安を和らげる受診・相談のタイミング
図3:不安を和らげる受診・相談のタイミング
図3:不安を和らげる受診・相談のタイミング

インターネットなどご自身で調べようとする方もおられますが、ALSは個々の患者さんで状況等も大きく異なりますので、あまり参考にならなかったりします。また、不正確な情報に、不安を増幅させてしまうこともあります。
不安や疑問は膨らませずに、一つひとつ確認して、我々とともに解消していきましょう。

患者さんとともに歩み、考える

ALSは未だ根本的な治療法が確立されていない難しい病気ですが、近年は医学研究の進展が非常に速く、ALSでもさまざまなお薬の治験が進んでいます。
ぜひ、希望をもって治療に取り組んでほしいと思います。

医師や看護師をはじめとする医療スタッフは、患者さん、ご家族とともに最善の治療を目指すチームのメンバーです。チームを信頼し、どのようなことでも伝えてください。

患者さんとさまざまなスタッフが、ともに悩み、ともに考えながら治療を進めていくこと、患者さんの状況や気持ちが変化したら、何度でも立ち止まり、ともに考えることこそが、最善のALS治療につながっていきます。

2021年6⽉26⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2022年04月11日)のものです。

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