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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2023.03.29

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デジタル技術とiPS細胞を用いたALS研究
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.9

京都大学 iPS細胞研究所 教授 井上 治久 先生
京都大学 iPS細胞研究所
教授 井上 治久 先生
目次

iPS細胞とALS

iPS細胞は、皮ふや血液などの細胞に特定の遺伝子を入れて樹立します。体のさまざまな細胞になれる細胞で、人工多能性幹細胞とも呼ばれます(図1)。

iPS細胞の登場により、ごく少量の血液などの細胞から、特定の細胞を作製できるようになりました。
これにより、患者さんの数が少ない希少疾患の方の細胞を用いた研究や、入手が困難な神経細胞を用いた研究が進められてきました。
現在では、iPS細胞を用いた細胞移植の研究開発、新しい薬の研究開発が進められています。

図1:iPS細胞とその活用法図1:iPS細胞とその活用法
図1:iPS細胞とその活用法
参考:京都大学 iPS細胞研究所 CiRAホームページ(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/

2012年に私たちは、患者さんの細胞から作製したiPS細胞由来の運動神経細胞の研究を報告させていただきました。iPS細胞がALSの病因解明や、薬剤候補のスクリーニングに有用なツールとなる可能性を報告いたしました1)
その後、既存薬などの中のALS治療薬候補を探索いたしました2)

1)Egawa N et al. Sci Transl Med. 4(145): 145ra104, 2012
2)Imamura K et al. Sci Transl Med. 9(391): eaaf3962, 2017
参考:京都大学 iPS細胞研究所 CiRAホームページ(https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/
川澄侑哉 他. 医学のあゆみ. 272(6): 541-544, 2020

デジタル技術とiPS細胞

今回のALS Caféでは、iPS細胞とALSのさまざまな研究結果の中から、近年目覚ましく進歩しているデジタル技術とiPS細胞を掛け合わせた研究について、ご紹介いたします3)

デジタル技術には、IoT、ビッグデータ、AI、ICT、RPAなどがあります(図2)。

図2:代表的なデジタル技術の特徴図2:代表的なデジタル技術の特徴
図2:代表的なデジタル技術の特徴

中でも、AIの深層学習(Deep Learning)という、人間ではなく機械が自分で考えて判断する能力に着目し、iPS細胞から作製した運動神経細胞データから、ALSを見分けるAIを作ることを試みました(図3)。

図3:AIの機械学習と深層学習
図3:AIの機械学習と深層学習
参考:総務省 令和元年版 情報通信白書 第1章 第3節 ICTの新たな潮流

3)Imamura K et al. Ann Neurol. 89(6): 1226-1233, 2021

AIはALSを見分ける!?

まず、ALS患者さんと、ALSではない方のiPS細胞を作製させていただき、そこから運動神経細胞を作らせていただきます(図43)

図4:実験方法図4:実験方法
図4:実験方法

次に、お一人あたり数百枚の運動神経細胞の画像を入手し、AIに学習させたところ、最終的におよそ9割の精度でALS患者さんの運動神経細胞を見分けることが可能になりました。

一方、人が考えた項目(運動神経細胞の数や大きさ、樹状突起の長さなど)をあわせて運動神経細胞を判定してみましたが、この方法の判定精度は、AIの精度に比べて低い結果となりました。

AIの見方と人間の見方

AIが細胞のどの部分を見てALS患者さんの運動神経細胞を見分けているかを調べたところ、AIは運動神経細胞の細胞体という中心部分、あるいは突起部分に注目して、ALS患者さんの運動神経細胞を見分けているということがわかりました(図53)

図5:AIと人間は見ている部分が異なる図5:AIと人間は見ている部分が異なる
図5:AIと人間は見ている部分が異なる

AIとALSの未来

この技術はもしかすると将来的に、ALSを発見する診断のサポートや、個人差がさまざまなALS患者さんをいくつかのグループに分けること、薬の効き方を見分けることなどにつながる可能性があるかもしれません。

AIとiPS細胞のテクノロジーが、ALSの克服に少しでも寄与すればと願っております。

2022年9⽉17⽇開催ALS Café webの内容をもとに情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2023年03月29日)のものです。

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