2020.03.31
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発話や書字でのコミュニケーションが難しい方のためのコミュニケーション支援手段
“視線入力機器”体験レポート
視線入力機器とは、発話や書字でのコミュニケーションができなくなり、対面での意思疎通が困難な方のコミュニケーション支援ツール(意思伝達装置の1つ)です。
2020年1月25日(土)、札幌市で行われた「意思伝達支援者養成講座」に参加し、視線入力機器の実際を体験してきました。
- 目次
- 取材させていただいた講座
- 札幌市提案型障がい者コミュニケーション市民講座
意思伝達支援者養成講座「視線入力機器の有効活用」 - 主催:札幌市障がい福祉課
実施団体:NPO法人 iCareほっかいどう
日時:2020年1月25日(土)
会場:札幌市の生涯学習センター「ちえりあ」
さまざまな意思伝達手段
病気の進行の度合いに個人差はありますが、ALSでは声を出したり発音したりすることが難しい、呼吸が続かず言葉をつなげられない、文あるいは文字を書けないなどで、考えや思いを伝えるのが難しくなることがあります。
このような患者さんの主な意思伝達手段をご紹介します。
まず、口文字です。患者さんはご自身が伝えたい言葉の母音(あいうえお)の口の形を示します。「あ」の場合、支援者は「あ行」を順に読み上げます。目的の文字で患者さんが合図(まばたきなど)をすることで、伝えたい文字を判読します。
これを繰り返して言葉や文章を綴っていきます。道具が要らないので手軽ですが、患者さんとご家族、ヘルパーさんが習得するまでに時間がかかります。
上肢を動かすことのできる時期には50音表を用いた文字盤もよく使われています。患者さん自身が文字盤を使って伝えたい言葉を指します。
同じ文字盤でも、透明文字盤を使う方法があります。50音表が書かれた透明ボードをはさんで、患者さんと支援者が向き合います。患者さんは目的の文字を見つめ、支援者が患者さんと視線があうように文字盤を動かすことで、目的の文字を判読します。
以上のようなアナログの方法は、特別な装置や電源が不要で手軽ですが、デジタル機器を用いた方法もあります。
タブレット端末や意思伝達装置を使い、スイッチを用いて画面の文字盤をスキャンさせて目的の文字を選ぶ方法や、今回の講座で紹介された「視線入力」という方法です。
視線入力機器によるコミュニケーション
視線入力機器は文字を示すだけでなく、画面上のコマンドを見つめることでパソコンに「メールを送る」「インターネットを立ち上げる」といった指示を出すことができ、ネット検索やSNSなど外部との情報のやり取りが可能です。また、そばに支援者がいなくても使うことができるのが大きな特徴です。
アナログの口文字や文字盤を用いる場合、患者さんが選んだ文字を介助者が記憶(記録)しておく必要がありますが、デジタル機器では、選んだ文字が画面上に表示されているので、時間はかかりますが長い文章を綴ることもできます。
患者さんごとにカスタマイズすることも可能な視線入力機器
視線入力機器の仕組みとはどのようなものでしょうか。
パソコンのモニターの下に特殊なセンサーがあります。このセンサーが利用者の目の動きを読み取り、モニターに映し出された50音表やアルファベット表のどの文字を見つめているか判別します。
1秒間ほど目的の文字を見つめているとその文字が選択され、また次の文字を見つめて決定することを繰り返して言葉や文字を綴ります。
実際に使用するときには、利用者にあわせた調整を行います。
目を動かす能力が変化しても使用が可能な機器も
視線入力機器のなかには、症状が進行して「目を動かす能力」が変化しても使い続けられるものがあります。
たとえば、視線入力は同じ場所を見つめることで文字を決定しますが、凝視という動作は繰り返すと疲労を伴うので、身体の一部を動かせる場合はスイッチを押すことで代替が可能です。また、目的や症状に応じて使いやすい画面の表示を選ぶことができます。
さらに各画面のレイアウトを自由に変更できる製品もあります。
右上に視線を動かすのが難しくなったら文字表のレイアウトを変えて右上を使わない形にする、同じ場所に視線をとどめるのが難しくなったらボタンや文字表の枠を大きくするなど、調整して使い続けることができるというものです。また、目を動かす速度が遅くなったら、ゆっくりした目の動きにあわせて反応するように設定を変えることもできます。
普及の壁を取り除く活動
視線入力機器などの意思伝達装置は、発話や文字でコミュニケーションをとれるうちから操作に習熟しておけば、病状が進行しても意思伝達力を維持できる可能性が高くなります。
しかし、公費による支援を申請してから受理されるまでに時間がかかることがあります。そのときには患者さんの意欲も申請時にくらべて弱くなっているかもしれません。
また、患者さんが装置を使いたいと願っても、導入の検討やセットアップができる人材がそばにいないと実現が難しいという現実もあります。
そのような普及の壁を取り除くために、今回、講座を開催したNPO法人iCareほっかいどうをはじめ、全国の様々な支援団体が、相談受付、申請手続きの代行、導入のお手伝いや導入後のサポート、さらには装置の必要性の啓蒙などの取組みを展開しています。
講座参加者の声
講座に参加した理学療法士は、「新しい装置やソフトが登場するのは素晴らしいけれど、技術に追いつくのが大変です。また、装置からインターネットに繋いで色々なことができますが、私たちもIoTの技術に詳しいわけではないので、慌てて勉強したりしています」と悩みを話してくれました。
口文字を使っているALS患者さんは、「目を大きく動かすことができないが、視線入力機器を使ってみたい 」とのことで講座を見学されていました。
iCareほっかいどう・佐藤美由紀さんに聞きました
元々、障がい者の就労支援にも取り組んでいた佐藤さんは、「就労によって社会参加をめざす障がい者の方々がいる一方で、病気や事故で四肢の機能を失ったり、気管切開などで発話や書字での意思伝達が絶たれたりした患者さんたちと、社会との接点を回復させる取組みが立ち後れているという危機感がありました」と、設立のきっかけについて語ります。
しかし、現在、広い北海道で難病患者さんの意思伝達支援に特化して取り組む団体はiCareほっかいどうのみで、移動にかかるコストを利用者に請求することは難しいという問題がありました。
そこで、取組みの輪を広げるために患者さんのご家族や、看護・介助を担う専門家や市民にも意思伝達支援の重要性と最新情報を知ってもらうための活動を開始。2017年12月に札幌市のコミュニケーション条例が制定されて、その中で市民講座をスタートさせました。札幌市の助成を受けて2018年度に10回の講座を実施し、2019年度では12回の予定で取材時が11回目でした。
「活動を始めた頃は、リハビリテーション職や看護師さんでも意思伝達支援の重要性に理解を示してくださる方は少なかったのですが、現在では理解が広がってきたように感じます。ずっと参加し てくださる方もいらっしゃいます。また、機器を利用してインターネットでたくさんの情報発信をしている有名なALS患者さんがおられるのですが、その患者さんのところに、ALSと診断を受けたばかりの患者さんが飛行機で訪ねていったことがあったそうです。当事者による情報発信が、新たな患者さんの支えになるなんて、10年以上前には考えられなかったことです」(佐藤さん)
佐藤さんの夢は、ALS患者さんが自宅で暮らせる社会を実現することです。
「北海道では、ALS患者さんが気管切開をして人工呼吸器を装置する場合は札幌の病院に入院するケースがほとんどだと聞いています。自宅や居住自治体の病院でケアすることが難しいからです。もっと意思伝達装置が進化したら、自宅にいながら遠くの専門医と繋がる遠隔医療も可能になるかもしれません。患者さんが、暮らしたい場所で暮らせる社会の実現を願っています」(佐藤さん)
- NPO法人 iCareほっかいどう
- 電話:011-795-5260 / ファックス:011-676-9142
メールアドレス:jimu@icare-h.org
住所:〒063-0826 札幌市西区発寒6条10丁目10番13号 アイビル12 203号室
URL: https://icare-h.com - 設立の目的
- 北海道において、障害者のための情報と通信と知覚に関するエンパワーメントセンターとなることをめざし、さまざまな機能を奪われた人が、再び社会との接点を回復し、残された時間を豊かに過ごすことができるよう、医療者、ボランティア、行政とのネットワークを構築することで、道内各地域での支援が円滑に進むよう努める。
意思伝達装置を導入する際に、導入前の相談や機器の紹介、スイッチの選定、コミュニケーション機器の操作支援を行うことを目的とする。
さらに、主たる対象を重症心身障害児とする児童福祉法に基づく事業を行い、子どもたちのコミュニケーション支援の強化に努める。
本コンテンツの情報は公開時点(2020年3月31日)のものです。