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監修:滋賀医科大学 脳神経内科 教授 漆谷真先生
砂川市立病院 脳神経内科 山内理香先生

2023.03.20

  • おでかけ

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の方が旅行を楽しむためのポイントあれこれ

2021 年8 月の日本ALS 協会様のご協力のもと患者さんにアンケートを行い84 名の方から回答をお寄せいただきました。この調査で、発症後も6 割以上の方が旅行に行っていることが分かりました。旅行に行ったことで「気分転換になった」「思っていたよりもスムーズに旅行ができた。また行きたい」というご意見が寄せられています。
また、この調査を通じて「旅行は好きではないと言ったけれど、いろいろと話しを聞いて旅行に行くためのアドバイスをもらい旅行に行きたくなった」というお声も寄せられました。

発症後の旅行経験
ない
38.1%(32 人)
ある
61.9%(52 人)

出典2021 年JTB 調査

また、回答いただいた方の多くが様々な医療機器をお持ちの上、旅行に出かけています。
この手引きでは、患者さんが安心して旅行にでかけられるよう、実際に発症後に旅行に出かけた患者さんのアドバイスも取り上げています。皆様の旅行出発の一助となれば幸いです。

MESSAGE
新潟大学脳研究所長 小野寺 理先生
コロナ禍で公共の交通機関のマナーは格段に改善し、以前に比べて安全に移動できると思います。色々な体験を重ねることは、皆さんにとってもご家族にとっても、人生を彩る上で大切なことだと思います。一方で、様々な心配事があるのも事実です。
ネットで情報を得やすくなっているとは思いますが、まだまだまとまって得られるところは少ないと思います。今回の企画と皆さんのアンケートの体験談は、これから旅行される方にとって、きっと役に立つと思います。
新型コロナウィルスについて
新型コロナウイルスは、飛沫、接触で感染します。 感染を予防するためには基本的な感染予防をすることが重要です。マスク着用、手洗い、手指の消毒を心がけ、三密 ( 密閉・ 密集・密接 ) を避けるようにしましょう。普段とは異なる症状がある場合は、まずかかりつけの先生に相談してください。

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情報収集

旅行先の選び方

ALSは、症状も進行も人により様々です。「症状が進行する前に、行きたい所に行く」と1人で海外へ出かけて行く方や、要介護5の認定を受けてからも何度も旅行に行っているという方もいらっしゃいます。
症状により、受け入れ側に必要な配慮も変わってきますので、まずは、お医者さんに相談をしてみましょう。

お医者さんへ相談

病気の状況をよく理解している主治医に旅行の計画を伝え、アドバイスをもらいましょう。


  • いつ頃なら行けそうか
  • 行きたい場所の特徴(国内、海外、温泉など)
  • 何泊まで大丈夫か
  • 薬の量や処方、医療的ケアに必要な器具など
  • 体調が悪くなった時の対処法
  • 紹介してもらえる病院の有無
  • 持っていったらよいもの
  • 注意点

など、事前に聞いておくと安心です。
特に、海外旅行の場合は、渡航先によっては薬の種類や量により持ち込みに制限がある場合がありますので、渡航先の制限を確認する必要があります。
渡航先の国によっては、英文の医師の診断書や薬の処方箋が必要になります。発行までに時間を要することがありますので、早めに確認し準備をしましょう。
旅先で体調が悪くなったら、すぐに医療機関を受診しましょう。
海外で医療機関を受診する際は、日本の保険は適用されませんし、非常に高額ですので海外旅行保険に加入することをおすすめします。ただし、既往歴があると保険に加入できない、保険適応されないという場合もあるので、保険会社に確認が必要です。
海外での緊急時には保険会社に連絡をすると、専門の病院や場所によっては日本語で診療してもらえる病院を紹介してもらうことも可能です。その際も事前に英文の診断書や処方箋があると、的確な診断を受けられますので用意しておきましょう。

旅行経験者からのアドバイス

主治医の紹介状を持ち、現地の病院に連絡をしておきました。薬の内容と、2日分ほどは多めに持っていく、呼吸器などの備品を余分に持っていくなどしました。チェックシートを作っておけば便利です。

旅行に行く前の準備

7割以上の方が、旅行前にバリアフリー情報などをいろいろと調べています。「バリアフリー」と書いてあっても、その施設に行くまでにバリアが多かったり、実際には自分に合っていないバリアフリーであったり、ということがあり得ます。旅行会社や場所によっては、現地の観光協会がバリアフリーに関する情報を一元化して持っていたり、器具の貸し出しや手配の代行をしてくれるところがあります。そのような所をうまく活用しましょう。

出典2021年JTB調査
旅行経験者からのアドバイス
  • 現地ではマッサージも予約しました。事前に症状を伝えておくと、理解あるマッサージ師さんが来てくれました。
  • 旅行先の天気を確認しておくことです。少しでも天気に不安があるようであれば無理をしないことです。
  • 出先にALS患者が行く事をあらかじめ伝えておくと、ちょっとした段差に板を渡したり事前に配慮して頂けます。
  • 使えるトイレがあるか非常に不安です。どこに使えるトイレがあるかをチェックしてから旅行を計画します。
  • ヘルパーさんの手配の日程が合わず難航しました。早めに手配が必要だと感じました。

2
移動について/交通機関

交通機関は、様々な乗り物が利用されていますが、中でも自家用車・レンタカーを利用した人が60%以上です。それぞれの交通機関の特徴と留意点についてみてみましょう。

自家用車、福祉タクシー

自分のペースで座位を保ったり、休憩を取ったりすることができるので安心感があります。
車には、車いすも乗せられるタイプ、座席が回転するタイプなど、様々なタイプの車両があります。
車いすごと乗車できるタイプであれば、どのドアが開くのかにも注意が必要です。後ろから乗車するのか横から乗車するのかによって、必要な駐車場のスペースが違ってきます。
長時間の移動だと、体幹が弱かったり、車いすのまま乗車していると揺れて辛いこともあります。
座席に移乗したり、座位を保つための工夫をしたりすることも考えましょう。
自分の状態や移動距離、状況に適したものを選ぶと良いでしょう。
※医療機器を利用している場合、電源を必要とすることがあるので電源の有無と位置の確認もしておきましょう。
休憩を取る際ですが、高速道路のサービスエリアや道の駅などは大型の車いすでも入れたり、大型介助用ベッドがある多目的トイレもあったりと整備されていますが、施設により利用できる設備は異なります。休憩場所の設備についても下調べをしておきましょう。

旅行経験者からのアドバイス

交通渋滞でトイレのタイミングを逃してしまいました。交通状況を把握し、早めに休憩を取るようにした方が良いです。

タクシー

普段、依頼をしていないタクシーを家に手配した場合、時間によってはスクールゾーンで時間通りに配車できない、ということもあり得ます。迎えの時間帯や待ち合わせ場所に気を付けます。

タクシーを予約する際に、車いす利用であればその旨やタイプも伝えておきましょう。
大きな駅の場合、予めどこに着けるのかや、電車の出発する番線、エレベーターへの移動経路を調べておくと運転手さんに伝えやすいです。また、飛行機も航空会社によってターミナルや入り口の場所が異なるので間違えないようにしましょう。

旅行経験者からのアドバイス

旅行先まで新幹線で移動し、移動先で車いすでも乗れるタクシーを捕まえようとしたのですが見つからず、結果、介護タクシーを手配して高い料金を払うことになりました。事前に、現地のタクシーについて調べておくと良かったです。

列車

ラッシュ時は移動が制限されることもあり、「ラッシュの時間の利用は避ける」という方は6割以上いらっしゃいます。
駅のバリアフリー情報を調べるという方も半数近くいらっしゃいましたが、駅によっては階段しかなかったり、エレベーターも大型の車いすでは乗れない場合もあります。大きな駅ではエスカレーターやエレベーターも改札から離れた場所にあり、駅構内の移動にも時間を要する場合があります。特に、乗り継ぎがある場合は時間に余裕を持ちましょう。また、駅に多目的トイレがある場合は、乗車前に済ませておきましょう。
電動車いすは駅員さんの手伝いが必要となります。特に予約は不要ですが、準備に時間をもっておきましょう。車いすのまま乗車する場合、1列車に1席しか車いすスペースがないことがほとんどです。多目的室が車内に用意されている場合、利用可能なこともありますので、事前に利用する鉄道会社に相談をしましょう。

医療機器を利用している場合、電源を必要とすることがあるので電源の有無や位置についても確認をしておきます。手回り品として車内に持ち込める医療機器には制限がありますので事前に確認をしましょう。自走用の車いすなどで通常の席に移乗して乗車する場合は、進行方向に対して一番後ろの座席の後ろは座席と壁の間にスペースがあることが多いので、この座席を選ぶとそこに車いすや大きな荷物を収納できます。

旅行経験者からのアドバイス

降車駅で連絡がうまく伝わっておらず、下車用のスロープの用意も駅員もいなかった。それ以来、介助者がホイッスルを持ち、緊急時にはホイッスルで助けが呼べるようにしています。

飛行機

各航空会社により必要書類(医療機器を持ち込む場合は所定の書類など)や条件、使用する機材や各空港により対応可能なことが異なりますので、事前に搭乗予定の航空会社の専用デスクに相談をしましょう。
広い空港の場合は長距離を移動しなくてはいけません。また、電動車いすの場合、預ける際に確認の時間を要します。飛行機を利用する際は時間に余裕を持って空港に行くことが必須です。
到着空港でも手伝いが必要な場合、飛行機から降りるのは全員が降機した後になりますので、到着地での行程は余裕をもって組みましょう。特に、到着した空港から別の飛行機に乗り換える、指定の列車に乗り換えるという時は乗り換え時間に気を付けましょう。
車いすや医療用機器の持ち込みには、必ず事前に航空会社に相談が必要になります。確認事項がいろいろとありますので、余裕をもった手配を心がけましょう。
国際線や海外の航空会社の場合は条件が変わることがありますので、お手伝いを希望される場合は必ず事前に確認をしましょう。特に、乗り継ぎがある場合、例えば薬や杖の持ち込みに関しても、国内の航空会社では大丈夫でも海外の航空会社ではNGということもありますので、事前に確認しておくことが大切です。また、乗り継ぎの際に荷物が同じ飛行機に搭載されない、いわゆるロストバゲージということはよくあります。翌日以降も必要なものは手荷物として機内に持ち込みましょう。
飛行機の通路やトイレは狭く、場合によっては乱気流などで席を立てないこともあります。空港には多機能トイレが完備されていますので、利用してから搭乗しましょう。

3
宿泊について

宿泊施設に関しては、事前にバリアフリー情報を調べている方が多いです。バリアフリーと書いてあっても、実際には使えなかったというご意見もあり、不明点は宿泊施設に直接問い合わせましょう。 トイレに関しては、ロビーにある多機能トイレを利用した、という方もいらっしゃいますので、部屋がバリアフリー対応でなくても対応できることがあるかもしれません。また、電動ベッドや温泉にリフトで入れる設備を備え付けている宿泊施設もあります。宿泊施設に関してはたくさんのお声をいただいておりますので、下記、参考にしてください。

旅行経験者からのアドバイス
  • ベッドと車いすの移乗ができるようにリフト付きと、電動ベッドがある部屋を選んだ。
  • バリアフリールームを頼んだが、家族3 人の旅行であったためベッド2 台までしか対応できないとのことだった。結局、一番広い部屋を選び、エキストラベッドを入れ3 人で泊まれた。部屋が広かったため、車いすの移動に問題はなかった。他のホテルでは、エキストラベッドを入れると浴室の扉が十分に開けられなくなるというアドバイスをもらった。
  • 介助できる環境か、貸切風呂はあるか、ベッドの高さ、バリアフリーかどうかを事前に確認しています。
  • 体位が保ちやすいため、リクライニングのあるいすを持ち込みたかったので和室ではなく部屋にテーブルがある洋室にした。
  • バリアフリーと書いてあっても、室内の段差や間口の広さ、手摺り位置は使い勝手を考えられておらず、実際にはバリアフリーではなかったので注意が必要。
  • 事前にホテルに状況を知らせて、環境の確認をしています。ベッド周りに、呼吸器などを置く台があるか、コンセントはあるか。介助者が介助できるスペースはあるか。角度が調整できる介護ベッドがあれば助かります。
  • 大手のホテルが手馴れており、情報も持っているためおすすめします。
  • かんぽの宿の「ハートフルルーム」は電動ベッドやリフトもついており使いやすかった。

4
荷物の準備

すぐに必要のないものは、事前に宅配便などで荷物を宿泊施設に送っておくと良いでしょう。その際も、宿泊施設には連絡をし、事前に部屋に入れておいてもらえるようお願いをしましょう。酸素などの医療機器も事前に手配をした場合は、宿泊施設に伝えておきましょう。

旅行経験者からのアドバイス
  • これまでの病状をまとめたメモを準備しておくと、何かあったときに、説明する時間を短縮できます。
  • いつも使い慣れているカトラリーや尿器用として500㎖のタンブラーなどを持っていきます。
  • 痰の吸引機器は保冷バッグに入れています。暑い時は助かります。
  • 医療関連とケア関連の大きく2 つのリストを作っています。宿泊施設で準備いただく観点で考えると、まず医療関連では、私共の場合、呼吸器と吸引器を使用しているため、その備品が必要です。機器の電源確保が必要なので延長コードは、意外に電源が少ないので、持って行きます。アルコール、ティッシュ、使い捨てグローブは、常に使うので、用意いただければ、荷物が少し減ります。吸引器の場合は、精製水も必要になります。ケア関連では、タオルは色々と使うので、宿泊施設などに多めに準備いただくと助かります。

5
食事について

事前に嚥下機能調整食などの対応が可能か、対応が難しい場合はキッチンハサミやミキサーを貸してもらえないかも聞いてみると良いでしょう。理由を話し嚥下機能調整食のレトルト食品を持ち込み温めてもらったという話もあります。

胃ろうの方でスタンドを準備することが困難な場合、S字フックを壁に引っかけて代用している、という方もいらっしゃいました。また、食事に困難があり宿の食事は食べられないので、近くにコンビニやスーパーがある宿泊施設を選んだというご意見もありました。
食事をしている所を見られるのが気になる方は、個室やパーテーションを用意してもらえないか聞いてみましょう。

旅行経験者からのアドバイス
  • ダメ元で頼んでみると対応してくれる所はたくさんありました。
  • 食事をカットできるようキッチンハサミは持って行きます。

6
観光について

自然、美術館・博物館、体験など、自分の趣味や興味に合わせて行きたいところを選びます。
その施設に行けるか行けないかは自分の状態に合わせた情報を取得します。


  • どれくらい移動するのか
  • 足元は悪くないか、車いすでも通行できるのか
  • 途中で休めるところはあるのか
  • 多機能トイレはあるか

天気予報にもよりますが、初日にアクティブな観光地を選び、旅行の2 日目以降はゆっくりできるような行程を組むことをおすすめします。
体調の変化も考え、宿泊施設にすぐに戻れるような観光地を選ぶと良いでしょう。

7
帰宅準備

旅行に行くと、ついついお土産を買ってしまい荷物が増えてしまうことも。必要のない荷物は宅配便などで送ってしまうと良いのですが、いつ荷物が届くのか確認が必要です。
翌日以降、遠いところや集荷の関係で翌々日以降に届くということもあるので、すぐに必要なものなどは手荷物として持ち帰りましょう。大抵の宿泊施設では、着払いで宅配を受付でくれます。
飛行機(国内線)で帰宅する場合、空港で荷物を預けた際に家まで届けてくれるサービスがあります。このサービスを使うと、空港に到着した際に荷物を受け取らず帰宅することが可能です。

海外から荷物を日本の自宅に送る場合、日数と金額がかかるのと様々な手続きを要するため、帰国までは一緒に移動することをおすすめします。国際線の到着空港ロビーに宅配便を受け付けるカウンターがありますので、そこから配送すると良いでしょう。

お土産

どうしてもお土産が必要なのに時間がなかったり、買うことができなかったりした場合、お土産のカタログ販売を利用することも便利です。先に注文しておくと、現地でお土産のことを考える心配もなく安心です。また、飛行機の場合、預けられる荷物の重量も決まっておりますのでお土産が増えて重量がオーバーすると超過料金がかかることもあるので注意しましょう。

本コンテンツの情報は公開時点(2023年3月20日)のものです。
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