2022.03.28
- 連載
- 病気のこと
見逃されやすい、ALS症状とその対応
- 病初期~中期の体重減少と、中途覚醒 -
連載:セミナーレポート「ALS Café web」 vol.7
- 病初期~中期の体重減少と、中途覚醒 -
- 目次
見逃されやすいALS症状
見逃されやすいALS症状には、体重減少や不眠、関節拘縮(筋肉がやせて関節の動く範囲が狭くなる)など、いろいろとあります。
今回はとくに、ALSの進行に深く関係する病初期~中期の体重減少と、中途覚醒(睡眠の中断)という2つの症状に絞ってお話しします。
体重減少は病初期から生じる
当院では、年に30~40名の方が新たにALSと診断されています。発症部位は手や腕、足、舌や喉(のど)などさまざまですが、体重減少はどこから発症した方でもよくみられます。私たちが診断した時点で、およそ4人中3人の患者さんで元気だった頃とくらべて5%以上の体重減少があり、なかには20%以上減っている方もおられます。
病初期~中期のALSでは、基礎代謝(エネルギー消費量)が増え、たとえしっかり食べていても、体重が減少します。さらに、飲み込みが難しくなったり、食欲がおちたりして食事量が少なくなった方では、なおのこと体重が減ってしまいます。
体重減少には栄養療法の早期導入を
体重減少が速い患者さんではALSの進行もまた速いという報告がいくつかあり1, 2)、私たちも実感しています。そのため、ALSと診断され体重が減っている方は、できるだけ早く栄養療法を開始して、体重維持に努めることが重要です3)。
まず定期的に、たとえば週1回ほど入浴前など時間帯を決めて体重を測り、食事をどのくらい摂っているか、記録してみましょう。しっかり食べているのに体重が減り続けると、体重計に乗ること自体おっくうになってしまうかもしれません。そのような方は、代わりに二の腕の太さを測るといった方法もあります。
そして、可能であれば管理栄養士による栄養評価を受け、自宅でどのような栄養をどのくらい摂るとよいか、アドバイス(栄養指導)を受けましょう。病初期~中期のALS患者さんを対象とした必要エネルギー量を推定できる計算式もあります(参照:ALSの情報サイト「ALS ステーション」https://als-station.jp/calc_energy.html)。
飲み込みにくい方や合併症(糖尿病や胃腸の病気)のある方もおられます。お一人おひとりの状況に合わせた栄養療法をおこなうために、調理法を工夫し、市販の栄養食品も活用し、体重を維持するよう努めましょう。体重を維持することで、病気が進みにくい身体づくりをおすすめします。
1)Shimizu T, et al. Amyotroph Lateral Scler. 13(4): 363-366, 2012
2)Moglia C, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 90(6):666-673, 2019
3)日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013 p.104-105
中途覚醒が呼吸機能低下のサインとなることも
ALSでは、夜眠っている途中で何度も目が覚めるという症状に気づく方がおられます。このような中途覚醒の原因はさまざまです(図1)が、とりわけ知っておいていただきたいのが「睡眠中の呼吸が不十分」な可能性です。
ALSの進行にともなって、呼吸に必要な筋力が弱くなってくると、睡眠中に酸素・二酸化炭素の交換が肺で不十分となり、何度も目が覚めてしまうことがあります。多くの患者さんは、呼吸の筋力が弱くなっていることを自覚しにくく、相当弱くなるまで息苦しさは感じません。また、夜間睡眠中の呼吸症状は、日中おこなう私たちの診察・検査では気づきにくく、見逃されやすいのです。
参考書籍:日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013 p.92-93, 118-119
中途覚醒には原因にあった対応を
中途覚醒があってよく眠れない方は、その頻度や程度などを記録して、ぜひ主治医に相談してください。どのような原因なのか一つひとつ確認し、対応を一緒に考えます(図2)。
もし呼吸機能の低下が原因であれば、マスク式の呼吸補助機器で夜間睡眠の改善が期待でき、生活の質を改善します。たとえば、日中の疲れやすさやぼぅっとした感じも減り、活力が戻ります。また、早めの対応が病気の進行抑制につながることもわかっています4)。睡眠時に呼吸が不十分とわかった方は、主治医とマスク式の呼吸補助機器を導入する相談をしましょう。
呼吸以外の原因では、お薬を使わない方法(図2)から試してみて、まだ少しつらいという場合にお薬を検討します。ただ、痛みについては積極的に和らげて質の高い睡眠を確保することが望ましいでしょうから、環境をととのえ、オピオイドを含む鎮痛薬や漢方薬など、症状・原因に応じて使うようにしています。その場合にも、呼吸機能が低下している方は、できるだけ呼吸に影響の少ないお薬を使うとよいでしょう。主治医にご相談ください。
4)Bourke SC, et al. Lancet Neurol. 5(2): 140-147, 2006
参考書籍:日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013 p.92-93
リハビリテーション医療は病初期から導入を
栄養・呼吸療法に加えて、リハビリテーション医療もALSの場合は病初期から始めることをおすすめします。就労している方も多く「仕事がリハビリになる」と考えている患者さんは多くいらっしゃいます。ですが、就労とは別に、ご自身の身体の機能を維持するための時間をしっかりととっていただきたいのです。ALSのリハビリテーションでは、身体機能維持、日常生活動作の工夫によって患者さん・ご家族の生活の質を向上し、社会参加を続けていくことが目的です。できれば診断時点から療法士の方々に家庭でも行えるリハビリテーション・メニューを作っていただき、訪問リハビリテーションへと引き継ぐとよいでしょう。
参考書籍:日本神経学会 監. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン 作成委員会 編. 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013, 南江堂2013 p.142-143
訪問サービスの早期利用で症状の見逃しを防ぐ
見逃しやすい症状の変化に気づくために、患者さんには身の回りのことはご自分で可能な病初期から訪問サービスを定期的に利用していただきたいと思います。
早めに訪問看護や訪問リハビリテーションを始めておくと、スタッフは患者さんの生活スタイルを理解することができ、患者さんが自覚しにくい小さな変化にも気づきやすくなります。訪問サービスでは定期的に主治医へ報告書が届くため、それをふまえて私たちが診察できる点もメリットです。また、患者さんご自身も自宅へスタッフが定期的に来るという新しい生活にだんだんと慣れ、徐々に安心につながります。
何でも相談することが大事
「夜中に何度も目が覚める」というお話から推察して呼吸障害が見つかるように、診察では、患者さん自身がはっきりとは自覚していない病状の変化を探り出し、より良い対応を相談します。そのため、当院の専門外来ではお一人30分以上の診察時間を確保していますが、60分かかる場合もあります。ぜひゆったりと、何でもお話しになってください。
もしお話ししにくいときは、医師以外の医療スタッフに伝えてください。看護師や療法士の方々、医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)や薬剤師、管理栄養士などが一丸となり、チームで患者さんとご家族を支えてまいります。
ALSにかかわる医療スタッフは病状への対応だけでなく、患者さんが本当になさりたいことを聞き出し、その実現に向けてサポートしたいと考えています。お一人おひとりが、その人らしく生きられるように支えることも治療の一環ですし、同時に私たちは患者さんから日々多くのことを学んでもいるのです。
まとめ:私が思う大切なこと3点
最後に、私がとくに大切と感じている3点についてまとめたいと思います。
- ①栄養療法と呼吸療法はそれぞれ、ALSの進行を抑制する治療法のひとつです。
積極的に取り入れてください。 - ②リハビリテーション医療は病初期から毎日取り組んでください。
訪問リハビリテーション、訪問看護などの訪問サービスもぜひ活用しましょう。 - ③気づいた症状があれば何でも相談してください。
診察のときは病気以外のこと、なさりたいこともお話しください。
ALSだからといって、ALSのことばかり考える必要はありません。
なさりたいことをどうやって実現していきましょうか、その工夫を私たち医療スタッフと一緒に考えていただきたいと思います。
2021年6⽉6⽇開催ALS Café webの内容を元に情報を再構成しています。
本コンテンツの情報は公開時点(2022年03月28日)のものです。