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ALS ACTION!(特設サイトに移動します)ALS最前線
愛知医科大学 理事長 祖父江 元 先生
突然発症し短期間のうちに進行する深刻な神経難病、ALS。日本における患者数は約1万人で、毎年1,000~2,000人が新たに診断されています。現在のところ、根治療法はないものの、遺伝子研究や医療機器開発などを通じて、ALS研究は大きく進歩しています。
第1回は、このようなALSの現状と展望について概説します。
ALSは運動神経が損傷し、脳から筋肉への指令が伝わらなくなる疾患です。その原因、発症のしくみは解明されておらず、根治療法は未だにありません。
初期の症状は、手足に力が入りにくくなる(四肢型)、舌や口が動きにくくなる(球麻痺型)、呼吸に支障がでる(呼吸筋麻痺型)などさまざまで、その後、症状が他の部位に進行します。
多くの患者さんは発症から短期間で急速に進行しますが、中には10年以上にわたってゆっくり進行する患者さんもいます。
近年は治療やケア、人工呼吸器などの進歩によって、栄養状態や呼吸の管理が改善、感染症などのリスクも減り、30年前と比べると生存期間は1年ほど長くなっています。
ALSの90~95%が遺伝等の原因がはっきりしない“孤発性”です。僅かながら確認されている遺伝性・家族性のALSについては日本と欧米では関与する遺伝子が異なることが報告されています。
年々増加し、2014年度には9,950人が確認されています(図1)。
図1:ALS国内患者数の推移(特定疾患医療受給者証ベース)
患者数が増加する最大の要因は高齢化です。ALSの発症数は50~70歳代に多く、団塊世代が高齢者となり65歳以上の人口増加に伴ってALS患者さんが増えていると考えられます。アルツハイマー型認知症、パーキンソン病などほかの神経が損傷する疾患も同様に増加傾向にあります。
専門診療科は神経内科です。神経内科医にとっては、アルツハイマー型認知症などと比べてALSは比較的鑑別しやすい疾患ですので、初期の段階で神経内科を受診された患者さんは、早く治療に入ることができます。
しかし、初発症状が手足や口・舌、呼吸などにあらわれるため、神経内科ではなく他の診療科を受診する患者さんが多く、結果として診断に時間を要する場合が少なくありません(図2)。
ALSは特に進行が速いため、診断の遅れは大きな問題です。
図2:ALS初診の実態(国内調査結果)
手足に障害があらわれると、多くの患者さんは整形外科や一般内科を受診します。例えば片側の脚だけに筋力低下がみられる場合、整形外科的には腰椎や脊髄に問題があると考えます。手に症状がでると同様に頸椎が疑われます。
このようにして、初期のALSは腰椎症、すべり症、腰部脊椎管狭窄症、頸椎椎間板ヘルニア、靱帯骨化症などの疾患だと診断されることが珍しくありません。治療を行っても改善がみられず、半年から1年が経ってからようやく神経内科に紹介されてくることが少なくありません。
血液検査などでALSを発見・診断する方法はまだ見つかっていません。発病率が10万人あたり1.1~2.5人というまれな疾患のため、健康診断などで発見することが難しく、初発症状を見逃さずにいかに早く治療を開始するかが重要となります。
手足などの麻痺が、治療開始から1ヵ月経っても良くならないようであれば、神経内科医に相談することをお奨めします。
現在、飲み薬と注射薬の2種類があります。
長い間、ALS治療薬は1種類の飲み薬だけでしたが、2015年、約20年ぶりに新しい注射薬が承認されました。難病であるALSに使える薬剤が増えたことは非常に喜ばしいことです。
これらの薬剤は、ALSの進行を抑える効果があると期待されています。ALSを完全に治すお薬ではないことにご注意ください。
薬物療法の他に、運動療法、呼吸管理、栄養管理などが治療の柱になっています。
【運動療法】
適切な運動療法は病態の進行を抑制し、生存期間を延ばす効果があると考えられています。筋力トレーニングのような強い運動ではなく、緩やかな歩行などの有酸素運動が良いとされています。適度な運動によって、筋肉から運動神経に神経栄養因子が運ばれるという動物実験結果もでています。
また、2015年、HALというロボットが、ALSを含む8つの神経・筋疾患の歩行を改善する医療機器として認可されました。ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)という先端技術を駆使した世界初の装着サイボーグ型医療機器で、筋肉を動かすために脳から発せられた信号を感知し、患者さんの動きを助けるように動きます。これを装着することで患者さんは思い通りに行動できるだけでなく、自分の筋肉も使いますからリハビリテーションにもなります。認可されたばかりですが、市販後調査を積み重ねてより効果を高めると同時に、下肢用以外の展開も期待されています。
【呼吸管理】
症状が進むと呼吸筋の力が低下し、自発呼吸ができなくなり、気管支を切開して呼吸器を装着する必要が生じます。しかし近年、非侵襲的陽圧換気法と呼ばれる身体を傷つけないタイプの人工呼吸器が登場し、患者さんの生活の質(Quality of Life:QOL)が大きく向上、気管支の切開を遅らせることができるようになりました。
呼吸筋が弱くなると、夜間の呼吸が難しくなり、朝の倦怠感、夜間不眠、頭痛などの症状があらわれます。就寝中にマスク型呼吸器を装着し呼吸管理を行うことで、これらの症状改善につながります。予後について一概にはいえませんが、より早期から呼吸ケアを取り入れることで、QOLの低下を緩やかにできることがわかっています。
【栄養管理】
誤嚥を防ぎつつ、必要な栄養を十分に取れるような食事の介助も重要な要素です。
ALSと診断されると当然のことながら気持ちが落ち込み、うつ状態になってしまう患者さんも少なくありません。また、ご家族や介護の方々の心理状態にも注意が必要です。患者会や家族会などの横のつながりを持つことを考えていくべきでしょう。
気持ちの落ち込みとは別に、症状が進むと高次機能障害、前頭側頭型認知症が出現することがあります。ALS患者さんの2割にその傾向があるという報告もあります。これによって精神的に不安定になったり、物事に固執したり融通が利かなくなったりといった変化があらわれます。このような症状がでる可能性があることを、ご家族や介護の方々が予め知っておくことも大切です。
主治医や医療スタッフと相談しながら、必要に応じて薬物治療やカウンセリングを行っていくことになります。
現在、名古屋大学医学部神経内科などが中心となってJaCALSと名付けられた研究が進んでいます。2006年1月から現在までの登録患者さんは1,100名を超え、世界的にみても貴重な大規模研究となっています。
(ALS研究のためにご協力いただける患者さんを募集しています。)
JaCALSでは、担当医が年に1回、臨床研究コーディネーターが3ヵ月に1回、患者さんの状況を確認・報告してデータを収集し、同意をいただいた患者さんの遺伝子調査も行っています。患者さんのリンパ球からiPS細胞をつくり、それを神経細胞に分化させて治療薬の開発に役立てる研究も進めています。
一口にALSと言っても症状や進行の速さに大きな違いがあることが、これまで治療法開発の障害になっていました。しかし、JaCALSによってタイプ分けができるようになれば研究にも弾みがつきます。
例えば、高齢になって発症した患者さんと若年発症の患者さんでは予後の経過は違いますし、手足の麻痺から発症した場合と舌や口の麻痺からの場合ではやはり経過が異なります。その違いはどこからくるのか、JaCALSのデータやiPS細胞の研究によって明らかになると期待しています。
また、ALSは発症から短期間で急速に症状が進む方もいれば、10年以上かかって緩徐に進む方もいます。病態進行の速さの違いに関係する遺伝子がないか調べていくと、ある筋肉タンパク質に関係する遺伝子の働きが悪い人が急速進行型になりやすいことがわかってきました。この遺伝子の働きを促進する薬が見つかれば、病態の進行を遅らせることができるかもしれません。
おわりに
前述のように、ALSは未だに根治療法が見つかっていない難病ですが、iPS細胞やBMIのような新技術を使った研究、JaCALSのような大規模な研究も進んでいます。
今後、「ALS最前線」では、患者さんのQOLの向上、予後の改善、そして根治療法の発見をめざす各取り組みについて、ご紹介していく予定です。
(2015.12取材)
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