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ALS ACTION!(特設サイトに移動します)ALS最前線
関西労災病院 神経内科 野﨑 園子 先生
ALSでは症状の進行にともなって、筋力低下や呼吸不全による摂食嚥下(せっしょくえんげ)障害があらわれます。進行が速い疾患のため、機能障害の程度を継続的かつ定期的に把握し、医療者と共により良い手立てを考えていくことが大切です。摂食嚥下障害があらわれても、食形態の工夫やリハビリテーションをおこなうことで、食べる楽しみを長く維持することができます。
第5回ではALSの摂食嚥下障害と、その対処法について解説します。
摂食嚥下障害とは口から食べる機能の障害のことで、食べることがむずかしくなった状態です。
水分の嚥下のモデルには4期モデルが、咀嚼(そしゃく)嚥下ではプロセスモデルがあります。実際には水分をのみ込む運動も、咀嚼して食べる運動も一緒に扱うため5期モデルを用います。
摂食嚥下障害があらわれたときには、摂食嚥下のプロセスを5段階に分け、どこに不具合があるのかを考えると、対応がしやすくなります(図1)。
図1:摂食嚥下運動(4期モデル)
動画でみる「健康な人の摂食嚥下運動」
※この動画には音声がありません。
1)野﨑園子, 市原典子 編著. DVDで学ぶ 神経内科の摂食嚥下障害: 121, 医歯薬出版, 2014
摂食嚥下の際には、食べ物を口に運ぶ、口を閉じておく、噛み砕く、舌を動かすなどの筋力を必要としますが、ALSでは運動神経が障害されて筋力低下が生じるため、摂食嚥下障害があらわれます。
例えば、「認知期」では、腕や体幹の筋力低下によって、食べ物を口に運ぶのに時間がかかったり、座った姿勢を保つことがむずかしく疲れてしまったりします。
「口腔準備期」では、口をしっかり閉じられずに食べ物や唾液が口から出てしまうことがあります。また、食べ物を噛み砕く力が低下してうまく噛めなかったり、のみ込みやすい形にまとめることがむずかしくなったりします。
「口腔送り込み期」では舌を動かす力が低下して、食べ物や唾液をのどの奥に運びにくくなります。
「咽頭期」では、のみ込む力や、食べ物を食道に押し込む力が低下してのどに食べ物が残ってしまいます。鼻孔への通路で軟口蓋(なんこうがい)がうまく閉じないことで押し込む力が抜け、食べ物が鼻に流入してしまうこともあります1)。
一方、「食道期」の機能は、比較的障害されにくいとされています。
どのような症状がいつから始まり、どのように進行するかには個人差があり、咀嚼し塊にした食べ物を舌からのどに移送する「口腔期」の障害からはじまり「咽頭期」がのちに障害される方、「咽頭期」からはじまりのちに「口腔期」が障害される方、両方同時に障害される方がいらっしゃいます。
1)野﨑園子, 市原典子 編著. DVDで学ぶ 神経内科の摂食嚥下障害: 121, 医歯薬出版, 2014
動画でみる「ALSの摂食嚥下障害:口腔期の障害が先行した患者さん」
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動画でみる「ALSの摂食嚥下障害:咽頭期の障害が先行した患者さん」
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動画でみる「ALSの摂食嚥下障害:口腔期・咽頭期が同時に進行した患者さん」
※この動画には音声がありません。
1)野﨑園子, 市原典子 編著. DVDで学ぶ 神経内科の摂食嚥下障害: 121, 医歯薬出版, 2014
咽頭の先は、食道と気道に分かれています。
健康な人では、嚥下の際、食べ物を食道に送るときには気道が閉じて誤嚥を防ぎ、嚥下が終われば速やかに気道が開いて空気を取り込む仕組みが円滑に働いています。
しかし、呼吸機能が低下していると、嚥下の際に息苦しくなり、思わず息を吸って食べ物が気道に入ってしまいます。これを誤嚥(ごえん)といい、重度の摂食嚥下障害では咽頭に食べ物がつまることがあるので、注意が必要です。
また、誤嚥により発症する肺炎を誤嚥性肺炎といい、肺炎のため食事がとれなくなります。
嚥下障害と呼吸不全は互いに足を引っ張り合うような状況になるのです。
ALSの進行にともなって、口から食べることは少しずつむずかしくなりますが、食形態や介助の工夫、リハビリテーションなどによって、食べる楽しみを長く維持することができます。
大切なのは、味わう楽しみを諦めないことです。
また、病期に合わせて必要な量の栄養をきちんととることも大切です。ALSの初期には、基礎代謝が高まり、急激な体重減少が生じることが多く、この体重減少がその後の病状に悪影響を及ぼすことが報告されています2)。
食べる楽しみを維持することと並行して、食べることを続けながら、足りない栄養を補う手段として胃瘻(いろう)などの経管栄養や高カロリー輸液の点滴を考えていきましょう。
2)Shimizu T et al. Amyotroph Lateral Scler 13: 363, 2012
例えば、唐揚げは無理でも、ミンチ肉をまとめて唐揚げ風にするなどの工夫で、同じような味と食感を楽しめます。
また、嚥下しやすいようにとろみをつけたり、プリンやゼリー状に加工した食べ物もあります。
嚥下障害がある方向けに、さまざまな食形態(カット食、刻み食、ペースト食、ゼリー食など)の市販食品もありますので、嚥下機能に合わせた食形態を選択することが大切です。病気が進行すると、一般的な嚥下障害の方のための食事ではのみ込めなくなりますが、すべりのよい“とろみあん”であえることで、のみ込みやすい形態になります。どのレベルが適切かは、医師や医療職にたずねてみてください。
動画でみる「とろみあんの効果:鳥もも肉のブレンダー食+トマトソースのとろみあん とは?」
※この動画には音声がありません。
動画でみる「とろみあんの効果:ブレンダー食のみの場合」
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動画でみる「とろみあんの効果:ブレンダー食+トマトソースのとろみあん」
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1)野﨑園子, 市原典子 編著. DVDで学ぶ 神経内科の摂食嚥下障害: 121, 医歯薬出版, 2014
嚥下障害があっても、ちょっとした工夫でのみ込みやすくなることがあります。舌の動きが悪くても誤嚥の可能性が低い方は、少し上を向くことで、重力を利用して食べ物をのどの奥に送ることができます。また、少しコツは必要ですが、のみ込む瞬間に顎を出す動作をすることで、のどの通りがよくなることがあります。
腕や体幹の筋力低下によって自力で食べることがむずかしい方には、上肢サポート装具が有効です(図2)。また、機能を助けるためのスプーンなども活用できます。
テーブルを高くするだけで、楽に食事ができるようになる患者さんも少なくないため、状況に合わせて工夫することが大切です。
図2:上肢のサポート装具
リハビリテーションは、筋力や機能を回復させるものと思われがちですが、本来は、患者さんが自分らしく暮らせるように、日常生活動作を維持・向上するためにおこなわれるものです。
ALSのリハビリテーションは、今ある機能を可能な限り維持し、生かすために、患者さん一人ひとりに合わせておこなわれます。できないことではなく、今できることは何かを考え、状況や環境を整えます。
摂食嚥下障害のリハビリテーションの開始時期は、早めが望ましいと考えています。
これから起こる可能性のある症状について説明を受けたALS患者さんでも、のみ込む際の小さな違和感に気づかないことや、気づいても認めたくないという心理が働くことはまれではありません。
そこで、医療者は、対応が後手に回ってしまわないように、摂食嚥下機能の評価を病初期から継続的におこなって、患者さん本人が不自由を訴えるより前にリハビリテーションの開始を考えます。
例えば吸引であれば、のみ込めずにのどに残った食べ物を患者さんが自分で吸引できるくらいの早い段階から取り組みます。吸引が必須な状態になってからよりも、楽に取り組めるからです。
嚥下体操、進行期には口の周りのマッサージや、ガーゼを用いた舌のストレッチなどがあります。このような訓練を食事前におこなうことで、食事にかかる時間が短くなったという報告もあります3)。
また、アイスマッサージという、冷たい綿棒で口の中を刺激することで嚥下反射を促す方法もあります。
進行期には筋肉が疲労しやすくなり、体操や筋力アップトレーニングを食前におこなうことで、嚥下状態が悪化する場合があります。
必ず、専門家のアドバイスのもとでおこなうようにしましょう。
3)藤井正吾 ほか. 筋萎縮性側索硬化症の嚥下障害に対する訓練効果. 厚生労働省精神・神経疾患研究委託費.政策医療ネットワークを基盤にした神経疾患の総合的研究 総括研究報告書: 100-101, 2006
参考:摂食嚥下障害のリハビリテーションⅠ~Ⅲの詳細は、こちらをご覧ください。
ALSでは、病初期の呼吸リハビリテーションによって、呼吸機能をより良好な状態にできるという報告があり4)、呼吸機能の改善による摂食嚥下障害の改善も期待できます。
また、排痰訓練による肺炎や痰窒息の予防、食事中に息苦しさを感じるときは食事前または食事中に呼吸器(図3)を使用するなど、さまざまな対処法があります。
排痰補助装置といって咳を助け排痰を促す機器もあります。
4)寄本恵輔. 医療 59: 598, 2005
図3:呼吸器装置下の食事
この患者さんは球麻痺型の方でご自分で食べられますが、介助が必要な患者さんもおられます。
重度の誤嚥があるときには、気道と食道を分離する誤嚥防止術を検討します(図4)。この手術をおこなうと食べ物や唾液が気管に入るのを防ぐことができるため、食事や呼吸が楽になります。また、痰の吸引回数も減るため、患者さんだけでなく、ご家族など介護者の負担も少なくなります。
ただし、誤嚥の恐れはなくなるものの、咀嚼や嚥下機能が回復するわけではないことや発声機能が失われることから、医師やご家族ともよく話し合い、慎重に考える必要があります。
図4:誤嚥防止術
おわりに
摂食嚥下障害への対応だけでなく、ALS患者さんのQOLを維持し、生活を支えるためにできることはたくさんあります。ALSは難病として理解されており、地域連携体制が比較的スムーズに立ち上がります。医療従事者、福祉や介護の専門家、患者さんやご家族が“できることはたくさんある”という共通理解を持って取り組んでいくことが大切です。
(2017.04取材)
参考:摂食嚥下障害のリハビリテーション
【Ⅰ:①嚥下体操】
頬の筋力や口を閉じておく力を維持し、食べ物を口から出ないようにしたり、のどへの送り込みをスムーズにしたりする体操です。
①口唇をもんで引っぱる
②口唇を「パッ」と開けて閉じる
③口唇を突き出して「ウー」、横に引いて「イー」
④頬を膨らませたりへこませる
⑤頬を指ではさんでもむ
⑥舌を突き出して大きく回す(舌の運動)
【Ⅰ:②舌のトレーニング(段階1):筋力アップ】
舌を動かすことで、食べ物を口の中でうまくまとめたり、のどの奥に送ったりする機能を維持する訓練です。
①指の力(→)に舌で抵抗(←点線)してもらいながら、まず、舌を奥に押し、②次に左右に押して、最後に下に押し下げます。
【Ⅱ:舌のトレーニング(段階2):ストレッチ】
①ガーゼで舌を包んでゆっくり引き出します。
②引き出した舌を左右の広角に向けて、大きく動かします。
【Ⅲ:アイスマッサージ】
凍らせた綿棒などで口の中を刺激し、ゴックンとのみ込む運動(嚥下反射)を促す訓練です。
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