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ALS ACTION!(特設サイトに移動します)ALS最前線
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻 基盤看護学領域 教授 成田 有吾 先生
ALSでは運動機能だけでなく、呼吸、嚥下(飲む・食べる、飲み込む)、そしてコミュニケーションに障害が生じます。
コミュニケーションが障害される程度やスピードは患者さんによって異なりますが、早めの対応が必要です。ここでは、今あるコミュニケーションの機能をできるだけ維持する方法、コミュニケーションが障害されたときのサポートなど、ALSと診断されたときから知っておいていただきたいことについてご紹介します。
患者さんのQOL(生活の質)の低下を防ぐことはもちろん、治療に対する患者さんの意思を確認するためにも、コミュニケーション方法の確保はとても重要なことです。
ALSは症状の分布や進み方が患者さんそれぞれで異なるため、コミュニケーション障害のあらわれる時期はひとりひとり違います。
ほかの症状の進行が速い方はコミュニケーション障害も早くあらわれることが多いとされていますが、障害に気づく前の早い段階で対策を始めることで様々なサポートを選ぶことができます。
声を出したり発音したりすることが難しい、息が続かず言葉をつなげられない、文字を書けないなどで、考えや思いを伝えることが難しくなることがあります。
障害が進むと、表情や身振り手振りなどの言葉以外のコミュニケーションも徐々に難しくなります。
また、助詞(て、に、を、は)が抜ける、正しく漢字が書けないといった症状があらわれることもあります。
一方で、ALSの診断にショックを受けて無口になる方、中耳炎などで耳が聞こえない方などもいらっしゃって、コミュニケーション障害と間違われることもあります。患者さんご本人や周囲の方が気になることがあれば、医療者にご相談ください。
道具や機器、装置を使う場合でも使わない場合でも、ある程度の練習や慣れが必要です。
新しく導入する方法で患者さんの伝えたい内容を周囲の人が正しく受け取れているかどうかを確認するためにも、現状のコミュニケーション能力が失われる前に練習を開始することが期待されています。
パソコンやタブレットで利用できるツールも増えてきました。発病前からこれらの機器に馴染みがなかった患者さんは、ゼロから学ぶ必要が生じます。
今ある能力が失われることを前提とした練習に前向きに取り組むことは、患者さんにとってもご家族にとっても難しいことです。それでも、コミュニケーションを保つために何より重要なのは、常に早めに対策をスタートすることです。
コミュニケーション支援のための道具や装置があり、新しい技術も開発されています。
ALSを発症する前から二つ折り携帯、スマートフォン、パソコンやタブレットなどを使っていた患者さんであれば、使い慣れた機器を使ってコミュニケーションをとることができます(図1)。
パソコンなどに不慣れな方の場合、まずは、簡単なゲームから始めるのもよいでしょう。
また、普段はパソコンなどの機器・装置を使う方法が便利ですが、緊急時や災害時などに備えて機器や装置が要らない方法も使えるようにしておくと安心です。
図1:使い慣れた機器を用いたコミュニケーション
腕や指を動かせるなら筆談も重要なコミュニケーション手段となります。
機器や装置を使わない方法として、文字盤を使って文字を綴る方法もよく活用されます(図2A)。これまで使われてきたのは50音表の文字盤ですが、最近はスマートフォンの文字入力にみられるフリック式の文字盤も使われています。
『口文字』は文字盤を使わないコミュニケーション手段です(図2B)。患者さんが唇で母音の形をつくり、『ウ』ならば介護者が、『ウ・ク・ス・ツ‥』と順に発音して、『ス』でまばたきなどをしたら1文字目は『ス』。これを繰り返して文章をつくっていきます。慣れれば5分で200文字以上の文章を綴ることができます。
また、日常的なリクエストをカードに書いてベッドの周りに貼っておき、患者さんの目線をたどることで「今、して欲しいこと」を知るという方法もあります(図3)。
図2:装置を使わないコミュニケーション
図3:ご家庭での工夫例
パソコンやタブレットなどで様々なアプリが使えるようになりました。
ALS患者さんを対象に開発されたものはもちろん、幼児教育用に開発された装置や、肢体障害者向けの入力サポートツールも活用できます。
さらに、まばたきや頭の傾きなどの小さな随意運動をセンサーで拾って入力スイッチとして活用する装置も開発されています。脳波や脳血流、皮膚表面の電位などを入力スイッチとする技術の実用化も期待されています。
気管切開をして人工呼吸器を装着した場合、そのままでは声を作ることはできませんが、声を作る・発音する機能が保たれていれば、スピーキングカニューレ(図4A)や電気式人工喉頭(図4B)を使って、患者さんご自身の声で話すことができる可能性があります。
また、最近では健康時や予め病初期に録音された患者さんの声を合成して、コンピューターに入力した文章を読み上げるソフトも登場しています。
図4:スピーキングカニューレと電気式人工喉頭
※いずれの方法にもメリット・デメリットがあります。
装置などの入手や人的資源の確保に対する公的な支援制度があります。
物的な支援については障害者総合支援法における「重度障害者用意思伝達装置」「携帯用会話補助装置」「情報・通信支援用具」が対象となります。
また、医師の処方があれば医療保険または介護保険制度を活用して、コミュニケーション手段の構築を目的としたリハビリテーションを受けることもできます。
制度は全国一律ではないので、ソーシャルワーカーや患者会などにご相談ください。
是非、積極的に話すようにしてください。人の中に交わってください。そうすることでコミュニケーションにかかわる機能の維持につながります。
また、以前と違う症状に早い段階で気づくことができ、早めの対策が可能となります。
助詞が抜ける、呂律(ろれつ)が回らないなどの症状があっても、たくさん話すようにしていただきたいと思います。
おわりに
コミュニケーションの確保や維持は、療養生活において重要な課題です。
ALSと診断された直後はつらく、医療者の言葉に耳を傾けるのは難しいことではありますが、コミュニケーション障害に対する早めの対策を、患者さん、ご家族、医療者が一緒に考えていただければと思います。
(2017.10取材)
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